第3章 反逆の刃を空にかざす
その場にいる誰もが、イアンの言葉に驚きを隠さなかった。
息を呑む音が散発的に響き、手にした武器が小刻みに震える。
だけど、エレンは特別だ。
私たちには持ってないものを持っている。
そう信じる想いが、胸のどこかで熱を帯びる。
そんな彼を、軽々と死なせる訳にはいかない。
責務と希望が混ざった重さが、胸に沈む。
「…きっと、さっきの赤い煙弾を見た兵士たちはこう思っただろうな。 “嗚呼、こんなのただの無駄死にじゃないか”と」
私の言葉に、リコは想像し、先ほどまで必死に動かしていた口を止める。
その目には疲労と諦め、しかしどこかでまだ抵抗を続けようとする痕跡が残っていた。
私はそんな彼女を気にしないまま話し続ける。
胸の奥に燻る疲労と、同時に燃えるような決意があった。
声に力を込めれば、周囲のざわめきが一瞬静まるのを感じる。
「この場にいる私たちは、本作戦に参加している中でも優秀な兵士ばかりが揃っている。
私たちは死んでいった者たちへ、意味を与えなければいけない」
言葉は低く、だが確かな音を伴って放たれる。
言葉の端に、過去の痛みと今の期待が混ざる。
それは、私たちが人類の命運を託されたからだ。
そう簡単に負ける、諦めることは許されないという感覚が、肋骨の奥で固まっていく。
目の前の兵士たちの顔に、覚悟の影が落ちる。
どうせ、ピクシス司令は撤退命令など出さないだろう。
私と同じ様な考えを持っているであろうから。
思考は冷静だが、体は微かに震えている。
「死んでいった者たちを“無駄死にした”と言わせないためにも、私たちは戦い続けるしかない」」
私の声に、空気が粘るように反応する。
胸の中で鼓動が大きくなるのを感じた。