第3章 反逆の刃を空にかざす
少し間を置いて、私は口を開いた。
視線の先には、まだ煙の残る街並みが広がっていた。
「巨人に地上を支配される前、人類は種族や理の違う者同士で果てのない殺し合いを続けていたという。
その時に誰かが言った、もし人類以外の強大な敵が現れたら、人類は一丸となり争いを止めるだろうと」
淡々と語りながらも、胸の奥では言いようのない不安が広がっていく。
どれだけ“敵”を明確にしても、人は簡単には一つになれない。
「しかし、この言い伝えを聞いて君はどう思う、ミカサ?」
「…今現在、兵士達は一丸になって戦っているようには見えません」
「その通りだ」
ミカサの冷静な声に、私は小さく頷いた。
強大な敵にここまで追い詰められた今でも、一つになったとは言い難い。
それは何故か。
──“恐怖”があるからだ。
調査兵以外の兵士たちは、今日が初めて実戦投入だったものが多いだろう。
まだ、精鋭たちが沢山この場にいたら良かった。
だが現実は、そうではない。
恐怖を抱えた者達が多く集まっていたらどうなるか?
答えは簡単だ。
感染病みたいに、他の者にも伝染していく。
自分は大丈夫だと思っていた者にも。
「兵士たちの撤退から時間が経っている。
今頃、招集場は大混乱に陥っているだろうな。
私たちの敵は、時間と、恐怖を抱えた兵士達だ」
風が強くなり、誰かの悲鳴が遠くでかすかに響いた気がした。
私は拳を強く握る。
一刻も早く、作戦を立て、それを皆に共有しなければいけない。
じゃないと、戦意喪失した兵士はそもそも作戦に参加しようとはしない。
「だから早く、一つにならないといけない。結局人類は、一人で戦うことなど出来ない」
言葉が空に溶けるように消えていく。
だが、アルミンとミカサは真っすぐにこちらを見つめ、“なるほど”という表情で頷いた。
その瞳の奥には、確かな意志の光があった。
少なからずこの二人は、恐怖に侵されているようには見えない。
それがどれほど心強いことか。
「ミカサ」
名を呼ぶと、彼女は小さく顔を向けた。
夕陽に照らされたその横顔は、どこかリヴァイを思い出させた。
鋭く、美しく、そしてどこか孤独を背負っている。