第3章 反逆の刃を空にかざす
私たちは司令の方を向いた。
「活躍してもらうぞ。若き兵士達よ」
ピクシス司令の声は低く、だが不思議と温かかった。
その言葉に、エレンたちは力強く頷く。
彼らの瞳の奥に、再び火が宿るのを見て、胸が少しだけ軽くなった。
それを見た司令は、私の方に視線を向ける。
「それにしても、お前さんも大変じゃのう。
謹慎中に、巨人が来るとは思っていなかったろう」
「…謹慎ではなく療養です。
巨人殺しのスペシャリストがいない今、私だけでもこの惨状に居合わせることが出来て良かったです」
「それはわしも思ってるわい。
お主がいてくれて助かった。期待してるぞ」
司令の手が私の肩に置かれた。
その掌は驚くほど温かく、長い年月、戦場に立ってきた重みが伝わってくる。
ピクシスも、この惨状をどうかしてでも終わらせたいと本気で思っているのだ。
それは、この場にいる全員の願いでもある。
既に、一般兵士たちは恐怖に心を支配されかけている。
だからこそ——私が先陣を切って、希望を示さなければならない。
私は司令に向かって敬礼をした。
「必ずや、人類の勝利に貢献してみせます」
その瞬間、沈んでいた空気が、少しだけ動いた気がした。
まるで誰かが灯した小さな炎が、闇を押し返し始めたかのように。
エレンと司令が指定の場所に向かって壁を歩いている頃、アルミンは先ほどの言葉について聞いてきた。
傍にはミカサもいた。
「副長、先ほどの言葉の意味は…?」
『敵は、巨人だけではないという事だ』
──この言葉のことだろうか。
冷たい風が壁の上を吹き抜け、灰色の空の下、私の影が長く伸びていた。
「これは私の考えだから、気にしないで聞いて欲しい」