第3章 反逆の刃を空にかざす
彼女の言葉に、周囲の空気が一瞬鋭くなる。
エレンは少し不快そうに「ハァ?」と返す。
アルミンはいつものように、どこか達観した顔でその光景を見ていた。
「駄目だ!」
エレンの声が弾ける。声には怒りが混じる。
互いの距離感がほんの一瞬でぴんと張る。
視線がぶつかり、言葉が火花を散らす。
「私が追いつけなければ、私に構う必要は無い!ただし私が従う必要も無い!」
ミカサの声には切迫感がある。
彼女の体全体が前のめりになっているように見えた。
危機を前にして最も即応的に動く人間の姿。
ミカサの言葉にエレンは口調を強くする。
「いい加減にしろって言ってんだろうが!俺はお前の弟でも子供でもねぇぞ!」
叫びに似た言葉の裏に、幼さと抗いが混じっている。
彼は必死で自分の価値を示そうとしているのだ。
誰にも頼らずに役割を全うしたいと言う、痛いほどの独立心。
「喧嘩している場合ではないだろう。
それに、例え君たちがシガンシナに行こうとしても、私は認めない。エレン、君は人類の希望となる」
私の声は低く、諭すように響いた。
その「希望」という言葉は重たい。
だが同時に、誰かの肩にのしかかる重責でもある。
今まで、巨人化する人間は壁内に現れたことがなかった。
最初は、その事実に驚くだろう。
そして、恐怖を抱く者も出てくる。
目の前に広がる現実は、不安と可能性が混ざり合った混沌だ。
だが、私は冷静にその可能性に目を向ける。
「だが、誰かが言っていた。もし、巨人が味方になれば、それはきっとどんな大砲より大きな武器になると」
その言葉を口にした瞬間、周囲の雑音が一瞬薄まる。
可能性の重みが胸にずっしりと落ちる。
シガンシナ区奪還
——それはただの理想ではなく、現実に変わるかもしれない切符だ。
想像するだけで、空気が鋭く震えた。目に見えぬ未来の輪郭が、ほんの少しだけ浮かび上がる。
その夢を叶えるためにも、彼をここで失いたくない。