第2章 絶望の果てに灯るもの
グレースー。
その名が心に浮かんだ瞬間、医療班の女性の瞳に一抹の哀しみが宿った。
彼女は傷を抱えながら戻ってくる兵士を想い、その背負いを少しでも軽くしようと、手を早める。
震える指で丁寧に包帯を締め上げると、低い声で付け加えた。
「いいですか。戦場で頼りになる人ほど、自分の体を労らない傾向があります。
今日の損耗は、明日の壊滅に繋がる。勘弁してくださいね」
その言葉は、苛立ちのようでいて、切実な祈りにも似ていた。
周囲の兵士たちも、どこか同意するように頷く。
戦場で生き延びるには、時に自分自身を守ることも必要なのだ
——誰もそれを口にするのが容易ではないだけだ。
外では遠く、巨人の咆哮が薄く聞こえた気がした。
壁外調査が終わったばかりだから、聞こえない筈の声も聞こえてしまうのだ。
木々は風にざわめき、空はまた灰色を増していく。
医療班には静かな決意と、疲労の匂いと、止められない悲しみが混ざり合っていた。
そこにいる全ての者が、喉の奥に何かを飲み込みながらも、明日を生き抜こうとする。