第2章 絶望の果てに灯るもの
「何だよ、一体?」
ジャンが呟いた。
その声は恐怖とも、驚愕ともつかない震えを帯びていた。
その巨人の項の中で、何かが“モゾモゾ”と動く。
肉が剥がれ、蒸気が溢れ、まるで殻を破るように何かが這い出てくる。
私の喉が自然と鳴った。
息を詰めたまま、目の前の光景を理解しようとする。
だって、こんな事例、聞いたことがない。
巨人の中から──“人間”が出てくるなんて。
項から姿を現したのは、一人の少年だった。
ぐったりとしていて、血と蒸気にまみれている。
隣にいたミカサが弾かれたように動いた。
彼女は立体機動のアンカーを放ち、ためらいもなく下へと降りていく。
「ミカサ!」
呼び止めたアルミンの声など、彼女には届かなかった。
ミカサはその少年に駆け寄ると、膝をつき、彼を抱きしめる。
その仕草に、戦場の喧騒が一瞬止まったように思えた。
──知り合い?
いや、それ以上の…何か。
彼女は震える手で少年の胸に耳を当てる。
静寂の中、わずかな音が聞こえたのだろう。
「ドクン、ドクン」と、確かに命が脈打つ音。
ミカサの肩が震え、次の瞬間、声をあげて泣き出した。
その泣き声は、絶望の果てでやっと見つけた希望のように響いた。
アルミンも、ジャンも、慌てて彼女のもとへ駆け寄る。
私も続き、瓦礫を飛び越えてその場へ向かった。
「とりあえず、先に壁に登る。いつ巨人が来てもおかしくない」