第2章 絶望の果てに灯るもの
ミカサは涙を拭うことなく、少年を抱えたまま立ち上がる。
その腕には、まだ少年の体温が確かにあった。
壁の上に辿り着くと、光が少年の頬を照らす。
その横顔を見て、アルミンの表情が歪んだ。
「……ッ」
彼は震える手で、少年──いや、“エレン”の左腕に触れる。
その指先に、かすかな温もりと、確かな“生”を感じ取ったのだろう。
目から涙が零れ落ち、震える声で言葉がこぼれた。
「一体……何が……!」
その叫びは、安堵と混乱と、信じたいという祈りの混ざった音だった。
少し離れた場所で、それを見ていた私たち。
誰一人、言葉を発することができなかった。
ただ風だけが、瓦礫と血の匂いを運んでいく。
“謎の巨人を操っていたのは、私たちと同じ人間だった──”
「彼は、一体……」
私が問いかけると、隣に立っていたジャンが私を見る。
「……彼は私たちと同じ、104期訓練兵団所属の、エレン・イェーガーです」
その名を聞いた瞬間、時間が止まったように感じた。
耳鳴りがして、視界の端が霞む。
私は振り返り、瓦礫と煙の向こうに広がる街を見つめた。
そこには、エレンによって倒された無数の巨人たちの亡骸。
蒸気が立ち昇り、太陽の光を受けてゆらめいている。
「これを全部……彼が、やったってこと……?」
誰にともなく呟いた言葉が、風に溶けて消えた。
信じられない。
でも、確かに目の前で起きた現実。
人類の絶望の中に、たった一つ──
“希望”が、姿を現した瞬間だった。