第2章 絶望の果てに灯るもの
ガスが補給出来たことで、周りの空気は一気に穏やかになった。
兵士たちの肩の力が抜けるのが分かる。
疲労で張り詰めていた表情が、ようやく柔らかくなる瞬間だ。
私もガスの補給が終わった為、一つの疑問を解消するために、ある人物を探していた。
胸の奥に引っかかる不安を払うように、私は足早に辺りを見回す。
「この中に、補給兵はいる?」
声を張ると、隅っこで震えている数人がふらふらと立ち上がった。
彼らはまだ巨人の恐怖が抜けず、体を抱きしめるように自分の肩を抱いている。
「ッ俺たちです…!」
その答えを聞くと、私は彼らの元へ駆け寄り、掴むように肩を引いた。
冷たい手の震えが掌に伝わる。
未だに巨人に対する恐怖が残っているのか、端っこに座り自身の肩を抱いてブルブルと震えている。
そんな彼らの肩を掴み、ある事を聞く。
「ここに隊長は…いるんじゃないのか?」
声は優しくも、核心を突く。
恐怖で視野が狭くなった者の目が一瞬だけ力を取り戻す。
「っ…それが…指示があるとかで、安全な内門の中に…」
言葉の端々に、責任の重さと申し訳なさが混じる。
彼らの声はまだ揺れている。
「…隊長の名は?」
問いに、細い声で名前が返ってきた。
「キッツ・ヴェールマンです…」
その名を聞いて、脳裏に思い浮かぶのは図体のデカイ髭の生えた駐屯兵団の隊長の座に座るキッツの姿だった。
図体がデカい割には、子鹿の様な繊細な心を持つ男。
表情の裏にいつも不安がちらつくタイプだ。
(巨人が怖くて逃げ出したのか?)
真相は誰にも分からない。
勝手に責めることは出来ない。
とりあえず、その情報を聞けて良かったと胸の中で呟く。
「ありがとう、よく頑張った。もう大丈夫。君達も撤退して」
私の声は滑らかに、しかし確固とした安心を与えるように出た。
補給兵たちは言葉を聞くと、ぽろぽろと涙を零しながらも肩の震えを抑え、仲間に支えられながら静かに内門へと戻り始める。
彼らの足取りはまだ不安定だが、一歩一歩が確かだ。