第2章 絶望の果てに灯るもの
窓から外を覗くと、例の巨人はまだ他の巨人を蹴散らし続けていた。
ぶつかり合う巨体の衝撃音が、遠くまで震えを伝える。
粉塵が舞い、蒸気の匂いと焼けた肉の匂いが風に混ざって流れてくる。
(あり得ない光景だ……ハンジがここにいたら、興奮で発狂してるだろうな)
そんな呟きが心をかすめるが、すぐに現実に引き戻される。
窓越しに見えるあの巨人は、確かに並の巨人とは桁違いの力を持っている。
だが同時に、あの狂気じみた執着
――他の巨人を滅多打ちにする様子は、こちらにとっては希望にも恐怖にも見えた。
「大丈夫だ!あの巨人は並の巨人より強い。アイツが派手に暴れている間は、この建物も潰されないだろう」
金髪の少年の声は震えつつも、どこか希望を滲ませていた。
確かに今は、外敵同士の“争い”がこちらを守ってくれている状態だ。
だがそれは脆く、いつ崩れるか分からない天秤の上にいる。
私は新兵たちの群れに近づき、話の主導権を握っている少年に視線を向ける。
「それで、あの巨人に暴れてもらっている間、私たちは具体的に何をするの?」
少年は一瞬たじろいだが、決意を固めたように説明を続ける。
声は緊張で震えているが、論旨は明快だ。
「補給室に小型の3〜4メートル級の巨人が七体侵入しました。補給ができないから、そこを奪還しないと市民が避難できません。
そこで、我々はリフトで中央から人員を投下し、憲兵団管理の銃を使って七体の巨人の目を狙い視覚を奪います。
照準が合った瞬間、天井に隠れている七人が一斉に斬りかかる――それが作戦です」
言葉を尽くすアルミンの顔を見て、私は息を呑んだ。
若者の眼に浮かぶのは恐怖だけではなく、精密に組み立てられた論理と、冷静な計算だ。
瞬間、脳裏にエルヴィンの淡々とした先見性が重なる。
(すごい……新兵なのに、こんなに頭が回るなんて。まるでエルヴィンみたいだ)
「きみ、名前は?」と私は問い返す。
声に少しだけ暖かさを混ぜた。
「アルミン・アルレルトです!」
彼は小さく胸を張る。
「アルミン……いい案だ。君の計画でいこう」