第2章 絶望の果てに灯るもの
(しまった、人が集中しすぎた!)
胸の奥で冷たい警鐘が鳴る。
巨人の脅威から逃れられると思い込んでいた訓練兵たちの表情は、一瞬にして崩れ去り、パニックが街角を呑み込む。
叫び声、ガラスの破片が舞う音、誰かの泣き声——すべてが混ざり合っている。
「ミカサはどうしたんだ!」
「ミカサはガス切らしてとっくに食われてるよ!」
その名前が飛び交うたび、グレースの胸はきりきりと痛んだ。
頭の中が一瞬、真っ白になる。
さっきまで必死で戦っていたミカサの姿が、脳裏をよぎる。
助けに向かった二人は戻っているのか
——思い出すと、冷や汗が背筋を伝う。
(やっぱり、私が行くべきだった。いや、今からでも行くか?)
だが、目の前には不気味に笑う二体の巨人が鎮座している。
肌は蒸気と血で濡れ、目は虚ろだ。
吐き出す蒸気が冬の霜のように視界を曇らせる。
(気持ち悪い顔しやがって……ッ)
そう思った刹那、二体の巨人の顔面を巨大な手が掴み、思い切り叩き飛ばされた。
空気が裂け、石が砕けるような鈍い衝撃音が周囲を震わせる。
「っ!!」
吹き飛ばされた二体はよろめき、場面は一瞬、凍りつく。
吹き飛ばした巨人は咆哮を上げ、威嚇するように喉を震わせた。
風に混じるその鳴き声が、人々の鼓動をさらに早める。
「なっ……ありゃ……なんだ……?」
新兵たちの声が、戸惑いに満ちて割れる。
グレース自身も、驚きで言葉を失った。
目がぐるりと回り、視界の端に映る影を追う
——窓がぱきりと砕け、人影が突き出した。
窓を破って入ってきたのは、ミカサと、助けに向かったあの二人だった。彼
らは血と煤にまみれているが、確かに立っている。