第2章 絶望の果てに灯るもの
ミカサが落ちた今、先導して巨人を討つ役割は私ひとりだ。
だが、胸の内ではふたつの衝動が激しくぶつかっている。
(彼女を助けに行きたい……でも、さっき示した覚悟を撤回するわけにはいかない)
一度示した決断を引っ込めれば、後続の若者たちの心が折れる。
だが、ミカサを放置すれば、若き命が犠牲になる可能性がある。
視界の端で、坊主の少年と金髪の少年がミカサの落ちた方向へ必死に向かっているのが見えた。
無謀に続く彼らの背中が、胸を締め付ける。
(ここをまず安定させてから……でも、ガス切れ寸前の新兵を放っておくわけにはいかない)
頭がぐるぐると回る。
普段ならば瞬時に最善を選べる私が、今は選択肢の重さに押し潰されそうだ。
疲労が体を蝕み、呼吸が浅く速くなる。
酸素不足が判断を曇らせ、思考がもつれる。
手が微かに震え、視界の縁が暗くなる。
(私の軽率で、この子たちの命を奪ってしまったら)
その恐怖が喉に突き刺さる。
後ろに続く訓練兵たちの期待と不安が、重くのしかかる。
私は一人、彼らの命を背負っているのだ。
普段は後方で指示を出す立場だが、今は前線に立つ者としての責を負っている。
思考がふらつく中、また巨人が一歩踏み出した。
瓦礫が震え、遠くで屋根の崩れる断続音が連なる。
空気が歪み、血の匂いがさらに濃くなる。
瞬間、冷たい決断が降りる。感情は雑音に消し去り、身体が反応する。
「邪魔!!」
私の叫びが空を切り、刃が走る。
鋭い一撃が巨人の視線を断ち、風が耳を引き裂いた。
目の前の恐怖をたたき斬るために、グレースは前へ突き出た。