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【進撃の巨人】救世の翼【加筆修正完了】

第2章 絶望の果てに灯るもの


先に飛んでいった少女の背中を追いかけながら、私の胸に違和感が芽生えた。




(あの子……ガスを吹かしすぎてる。何かあったのか?)




空を切る風の中、彼女の動きは確かに鋭い。


うなじを正確に狙い、躊躇なく刃を突き立てるその所作は歴然の兵士のものだ。



だが、吐かれるガスの量が尋常でない。


機動の合間に聞こえる「フッ、フッ」という乱れた息づかいが、私の不安を掻き立てる。




屋根と屋根の合間を縫って速度を上げ、私は彼女と並走した。



風が耳を震わせ、瓦礫の匂いと血の匂いが混じって鼻腔を刺す。



地上の喧騒は遠く、ここは空中だけが自分の世界だ。





「君、少し落ち着いて! ガスを吹かしすぎ!」




声を張り上げる。
言葉は飛沫のように彼女の肩にかかるはずだ。





「私は充分落ち着いていますっ」





返事は冷静だが、その声に混ざる乱れた呼吸は嘘をつかない。





「どこが!そのままじゃすぐに無くなる!
いくら君が強くても、機動力が無ければ無力だ!」



「うるさい!」





私の忠告は、彼女のまっすぐな焦燥に遮られる。


ミカサは我が身を顧みず、巨人へと飛び込んでいく。


刃がうなじを割き、肉と蒸気と血が風に散る。
だが、やはり――ガスの噴き音が急速に弱まるのが見て取れた。





(やっぱり)





機動の勢いが落ち、ミカサの動きがぎこちなくなる。


制御を失った体はそのまま屋根の淵に引かれ、次の瞬間、彼女は重く地面に滑り落ちた。





「ミカサ!」





名前が喉から飛び出す。

反射で体をひねり、救助に向かおうとしたが、視界の直前から別の巨人が迫ってきた。



瞬間、判断は刃へと帰結する。


くぐらせるように腰を落とし、ブレードを突き出して奴のうなじを裂いた。



刃が肉を切る音が頭の中で鈍く響き、蒸気が私の顔を炙る。

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