第2章 絶望の果てに灯るもの
私が前衛に着いた頃には、立体機動を操作して戦っている者はもう一人も見られなかった。
辺りに広がるのは、おびただしい血の臭いと、かつて“人”だったものの残骸。
瓦礫の下から、見覚えのある紋章が覗いている。
駐屯兵団の紋章。
まだ温かい血が石畳を染めていた。
そして、立ち尽くす無数の巨人たち。
彼らの眼は濁り、呼吸するように蒸気を吐きながら、ゆっくりとこちらへ顔を向ける。
(…一体、何体いるのやら)
笑うしかないほどの数だった。
空気が歪む。
血と熱気と腐臭で喉が焼ける。
人の気配を感じ取ったのか、巨人たちは一斉に顔を上げた。
巨大な影が私を覆う。
あっという間に、ここは地獄に変わった。
ほんの少し前まで、子供の笑い声で満ちていた街が、いまでは肉と炎の臭いに沈んでいる。
(…まるで、5年前の再現みたいだ)
いつ鎧の巨人が再び現れるか分からない。
もしウォール・ローゼまで破られたら、もう希望なんてどこにも残らない。
あの日の“悪夢の作戦”を、遥かに凌駕する惨劇になるだろう。
ブレードを抜く。
鋭い金属音が空気を裂く。
目を閉じると、浮かぶのはいつも“あの背中”だった。
深く、正確で、速い。
まるで空を斬るように舞い、緑のマントの自由の翼が風を裂く。
――リヴァイ。
あなたのように、私は勇敢でありたい。
そう思った瞬間、目の前に巨人の顔が迫る。
女が、静かに笑った。
「……かかってこい」
それはまるで、死神に向けた宣戦布告のようだった。