第2章 絶望の果てに灯るもの
(訓練兵を中衛に置く?
ダメだ、若者を前に出すわけにはいかない)
グレースの胸の中に、怒りとも悲しみともつかぬ熱が湧き上がる。
訓練兵たちの顔が、一瞬フラッシュバックする
――期待と恐怖が混ざった若い瞳。
「分かった。なら私が前衛に行き、少しでも巨人の数を減らそう」
言葉は冷静だが、決意は鋭い。
周囲の空気が引き締まる。
「!それはッ」
駐屯兵の咆哮が飛ぶ。
驚愕、制止、そして恐怖が混ざった声だ。
「無茶だと言うのか? 舐めてもらったら困る。
それに、訓練兵がいる中衛部隊に巨人を少しでも入れたくない」
グレースの声は低く、だが揺るがない。
若者たちの未来をこの場所で幕引きにしたくはない。
自身の体力がどれほど減ろうと、再生力があろうとなかろうと、
それが今の自分の責務だと信じている。
(私が足止めをする。時間を稼げば、市民は逃げ切れる)
「力のある私が行って、足止めを行う。
それが最善だ」
その言葉を告げると、周囲の兵士たちの視線が一斉にこちらへ向いた。
震え、疑念、そしてどこか安堵にも似たものが混じる。
「武運を祈る」
――そう言い、グレースは肩越しに空を仰いだ。
鼓動が耳に近づく。
冷たい風が頬を撫でる。
立体機動の張力が体を引っ張る感触が徐々に増す。
駐屯兵たちの咎める声が、背後から追いすがる。
「副長!無謀です!」
「無茶するな、命令で止められるぞ!」
叫びは届く。だが決意は曲がらない。
指先で索を確かめ、足元に体重を乗せる。
瞬間、世界が圧縮されるような感覚。
地面を蹴り、空が口を開ける。
黒いマントが風に翻り、グレースは人々の上に飛び出した。
大地と空の境が一瞬途切れ、身体が浮き、立体機動の鋭い引きで急角度へと向かう――
(行く。少しでも、未来ある若者を守るために)
その覚悟だけを胸に、彼女は空へと飛んだ。