第2章 絶望の果てに灯るもの
「ねぇ、立体機動の余りはある?」
声が低く、急いでいる。
周囲の喧騒が耳朶を震わせる中で、問いは短く放たれた。
「貴方は、グレース副長…? なぜここに…」
向こうの男兵士は驚きの色を浮かべる。
だがグレースは突っ立っている暇はない。
「そんな事はどうでも良い。で、あるの、ないの?」
男は慌てて別の兵に命じ、立体機動を取りに走らせる。
戻ってきた金具を受け取る間、時間が千倍にも遅く感じられた。
「どうぞ!」
「どうも」
ベルトをぐっと腰に巻きつける。
自分の装備ではないため、締め心地が少し違和感を与える。
滑る金属の冷たさ、締め付ける皮の匂い。
いつもと違う装束
──今日は白シャツに黒ズボンの私服だ。
布が擦れる音、立体機動のベルトが体に食い込む感触が、いつもより生々しく伝わる。
(このままじゃ瓦礫で素肌を切る。黒マントを被っておくか)
深く黒いマントを引き寄せ、フードの縁を整える。
たったそれだけのことで、少しだけ心が落ち着いた。
「配置はどうするつもり?」
駐屯兵の声が震えている。
地面の振動、あの超大型の衝撃がまだ残っている。
彼の口から出てきた編成は現実味を帯びて冷たく響いた。
前衛:駐屯兵団迎撃班。
中衛:訓練兵団(昨日解散式を終えたばかりの若者たち)。
後衛:駐屯兵団精鋭班
「前衛部隊はもう既に行ったの?」
「は、はい。しかし、先程の伝令で先遣団は既に全滅したと…」
言葉が喉に刺さる。
残されたのは駐屯兵たちと訓練兵だけ。
精鋭は不在。
市民の避難が終わる前に持ちこたえられるかさえ怪しい人数だ。
巨人と渡り合える戦力は到底ない。