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【進撃の巨人】救世の翼【加筆修正完了】

第2章 絶望の果てに灯るもの




「どこがいたいいたいなの?」





グレースは右腕を指さした。

グレースがかつて怪我を負った箇所だ。
そして少女の小さな手が、優しくその腕を撫でる。
 



「いたいのいたいの、とんでけ〜!」





その声があまりに素朴で、グレースの胸の奥が温かくなる。


久しく感じていなかった、人の優しさの形。

あまりにもまっすぐで、壊してしまいそうなほど柔らかい。





「……ありがとう」




グレースは思わず、少女の髪を撫でた。

指の間をすり抜ける細く柔らかな髪。


少女は嬉しそうに、猫のように頭をすり寄せてくる。





(こんなに小さな手が、あの日の“無力さ”を塗り替えてくれるなんてな)


「あ、こんなところに……!」





声のした方向を見ると、女の人が慌てたように駆け寄ってきた。


少女の母親らしい。
グレースを見るなり、はっとして頭を下げた。





「す、すみません副長!娘が何か失礼を――」


「いや……君の娘さんは優しい子だね」





グレースは微笑み、少女の背中を軽く押した。


「そろそろ帰りな」と静かに促すと、少女は素直に頷いて母親のもとへ走っていく。


その背に、透き通るような声が響いた。





「じゃあね、副長のお姉ちゃん!」





手を振る少女。

グレースも、ゆっくりと手を振り返した。


指先がわずかに震える。

彼女が完全に見えなくなるまで、グレースはその場を動けなかった。




(……6年前は、誰も私に手を振らなかった)




その事実が、心の奥でひどく重い。

あの頃の自分は、“死神”と呼ばれ、目を合わせる者さえいなかった。




白髪に所々に生える赤い髪と赤い瞳は忌まわしき印で、同じ兵士からも距離を置かれた。




それが今では――副兵士長。

街の子供たちが名前を呼び、笑顔を向けてくれる存在になった。




グレースは空を見上げ、薄く笑った。


青空の向こうに、戦場で散っていった仲間たちの影が見える気がした。





「……人生ってのは、本当に、分からないものだな」





風が吹き抜け、髪が揺れた。


彼女の瞳には、どこか遠くを見るような静かな光が宿っていた。
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