第2章 絶望の果てに灯るもの
を見ろ!リヴァイ兵士長だ!
一人で一個旅団並の戦力があるってよ!」
野次とも歓声ともつかない声が、群衆の中から上がる。
その瞬間、グレースははっとして顔を上げた。
思考の底に沈んでいた過去の記憶が霧散し、現実の喧騒が耳に戻ってくる。
人々の波が、通りを埋め尽くしていた。
砂埃が舞い、陽光に照らされた兵団の紋章がキラリと光る。
遠くに馬上の影――あの、見慣れた背中。
(……リヴァイ)
一般市民の肩越しに、彼の姿が見えた。
整然と並ぶ兵士たちの中で、彼だけが何か別の空気を纏っている。
視線を向ける人々の歓声にも、彼は眉ひとつ動かさない。
仏頂面――いつも通りだ。
その冷静さを、人々は「威厳」と呼ぶ。
その孤高さを、人々は「人類最強」と讃える。
だが、グレースには分かっていた。
彼がただ、誰よりも戦場を見てきただけの人間であることを。
「下らない」と吐き捨てたあの日の声が、耳の奥で蘇る。
「お姉ちゃん、何してるの?」
突然、幼い声がして、グレースは肩を跳ねさせた。
目を向けると、まだ十歳にも満たない少女が、興味津々といった様子で見上げている。
(こんな場所まで、子供が……)
「大丈夫? お腹痛いの?」
「いや、別に…」
「顔が見えないからよく分からないよ。見せて!」
小さな手が伸びた。
反射的に止めようとしたが遅く、フードが外れる。
光が差し込んで、グレースの髪が風に揺れた。
少女は一瞬、息を呑む。
そして――ぱっと顔を輝かせた。
「あれ、副長のお姉ちゃん……?」
「……」
「今日はお外に行く日じゃないの?」
「……怪我の治りかけだから、行けないんだ」
嘘だ。
本当は“罰”を受けている。
だが、こんな小さな子にそんなことを言えるはずがない。
グレースはほんの少しだけ目線を落とし、笑って見せた。