第2章 絶望の果てに灯るもの
沈黙の中、グレースは立ち尽くしていた。
胸の奥で何かが軋む音がする。
自分の中で割り切れない感情が、行き場を失って暴れていた。
ベッドに倒れ込み、顔を枕に押し付ける。
深く息を吸い込むと、胸の奥に沈んだ痛みが再び顔を出す。
(あいつらは、弱者じゃない……)
その言葉を反芻するたびに、胸の奥がずきずきと痛んだ。
わかっている。
みんな強い。
仲間を信じて、戦っている。
それでも――。
あの日、846年の悪夢。
焦げた鉄の匂い、赤黒い大地、そして耳を裂く悲鳴。
目を閉じれば、今でもあの光景が蘇る。
巨人たちは笑うように人を喰らい、仲間の叫びが次々と途切れていった。
掬い上げたはずの命は、指の隙間から零れ落ちる。
助けられなかった命が、いくつも、いくつも、積み重なっていった。
そして――その中には、彼女にとって“かけがえのない人”もいた。
静かな部屋の中で、グレースは唇を噛みしめる。
あの頃の絶望は、まだ消えていない。
リヴァイの言う「学べ」という言葉の意味も、頭では分かっている。
けれど、心が拒む。
『…それでも……強者が、弱者を守らないといけない』
掠れた声が、誰もいない部屋に溶けていった。
それは祈りのようで、呪いのようでもあった。
希望と恐怖、そして失われたものの痛みが、グレースの信念を作っている。
リヴァイがそれを“罰”と呼ぶ理由も、今はまだ分からない――。