第2章 絶望の果てに灯るもの
『必要性ならある。……お前がこれ以上、自分を壊さないためだ』
『壊れる?私が?』
グレースは鼻で笑う。
『そんなに私は脆く見えるのか。もう何度も壁外に出て、死にかけても生きてるのに』
『生きてる“だけ”だろうが』
その一言に、空気が一瞬止まった。
グレースは反論しかけたが、リヴァイの目を見た瞬間、言葉を飲み込む。
鋭くも、どこか痛みを滲ませた眼差し。
それは彼自身が何度も失ってきた“仲間”を思い出している目だった。
『…お前まで、そうなってたまるか』
その声は、命令でも叱責でもなかった。
ただの、願いのような響きだった。
グレースは拳を握りしめる。
反発したい気持ちと、胸の奥が熱くなるような感情が入り混じる。
『……君は、私のことを信用していないのか?』
『信用してる。だから止めてる
…お前が思っているほど、あいつらは弱者じゃねぇ。
いい加減、学べ』
『……』
リヴァイの手を掴んでいた力が抜ける。
その隙を見て、リヴァイは静かに彼女の手を外した。
一瞬、触れた彼の指先が熱かった気がした。
“部屋、綺麗にしとけ”
短い言葉を残し、リヴァイは背を向けて部屋を出た。
閉まる扉の音が、やけに遠くに聞こえる。
残されたグレースは、扉が閉まる音を聞きながら静かに息を吐く。
室内に残された静けさが、まるで罰のように重くのしかかる。
(……治っているのに。私なら、何度だって立ち上がれるのに)
誰にも理解されない体質。
それを“奇跡”だと笑う者もいれば、“気味が悪い”と囁く者もいた。
だが、彼だけは違った。
リヴァイは、その異質さを知りながらも、一度も恐れたことがなかった。
――だからこそ、余計に許せない。
守られることも、心配されることも。
彼の言葉が、未だに胸の奥で燻っていた。
(私が壊れる?……そんなわけ、ないのに)