第2章 絶望の果てに灯るもの
リヴァイは短く息を吐き、低く呟いた。
『俺に昔、上司の命令はちゃんと聞けと言っていたのはどこのどいつだ』
低く、乾いた声が部屋に響く。
リヴァイの言葉には、怒りでも苛立ちでもなく、諭すような冷たさがあった。
『違うね。私が言ったのは、必要性のある命令に対して聞けと言った。
今回の命令に、私は必要性があると感じられない。
だから、聞かないんだ』
言葉に迷いはなかった。
グレースはまっすぐにリヴァイを見つめ、まるで剣先を突きつけるような鋭さで言い切る。
その瞬間、部屋の空気がわずかに張り詰めた。
リヴァイの片眉がわずかに動いた。
それでも、彼は反論するでもなく、淡々とした視線で彼女を見つめ返す。
(この沈黙が、嫌だ)
口を開けば何かを壊してしまいそうで、呼吸すら重い。
外では風が窓を叩き、カーテンが小さく揺れた。
そのわずかな音が、余計に静けさを際立たせる。
『自分の力を過信する訳ではないが、私がいるのといないのでは生存率が違ってくるだろう』
グレースは、自分でも驚くほど冷静な声で言葉を紡いでいた。
手は膝の上で強く握られていて、指先が白くなる。
彼女の言葉の奥には、確信と焦燥が入り混じっている。
実力はリヴァイに到底及ばない。
だが、それでも「副兵士長」として戦場に立つ意味を、グレースは誰よりも理解していた。
彼女が抜ければ、確かに戦線は崩れる――その現実があるからこそ、納得などできるはずもない。
『そう思っているなら、尚更同行させられねえ。
どうやらこれが、お前に一番効く罰みたいだからな』
リヴァイの言葉は静かだが、その静けさが逆に痛かった。
まるで、鋭利な刃が胸に突き刺さるようだった。
『罰を受けるような事はしていないんだが』
諦めずに反論した。
けれど、リヴァイはほんの一瞬だけ視線を落とし、わずかに息を吐いた。