第2章 絶望の果てに灯るもの
「来たぞ!調査兵団の主力部隊だ!」
「エルヴィン団長!巨人どもを蹴散らしてください!」
街の人々が歓声を上げ、道に馬の足音が響く。
誇りと憧れの入り混じったその声は、まるで祈りのように空へと昇っていった。
だが――その喧騒から少し離れた細い小道。
陽の光が届かぬ影の中で、一人の女が静かに息をついていた。
グレースは黒いフードを深く被り、壁に背を預けながら膝の上に一冊の本を広げている。
淡い風がページをめくるたび、紙の擦れる音が小さく響く。
誰も、この薄暗い路地裏に“調査兵団副兵士長”がいるなど思いもしない。
人々の歓声が遠くでこだまし、彼女の周囲だけがまるで時が止まったように静かだった。
(……壁外調査に同行しないなんて、いつぶりだろうか)
指先でページをなぞりながらも、視線は遠くの空に向けられていた。
胸の奥に鈍い痛みが残っている。
あの日――彼から手渡された、一枚の書類。
【グレース・ヘルズの次回の壁外調査の同行を禁ず】
見慣れた文字、見慣れた署名。
だが、その内容だけはどうしても受け入れがたかった。
――あの日のことを、思い出す。