• テキストサイズ

三番隊の剣士【薄桜鬼】

第9章 嗜血


「……大丈夫か」

低く落ち着いた声が、しんと静まり返った部屋に落ちた。

斎藤は畳に膝をついたまま、藤堂から一瞬も目を離さずに霧島へ声をかける。その視線は鋭く、少しでも異変があれば即座に刀を抜くと告げていた。

「……はい、なんとか……」

霧島は肩で息をしながら、押さえた手首からじわじわと血が滲むのを見て息を呑む。
痛みよりも、藤堂の牙が自分に食い込んだという事実が、冷たく重く胸に残っていた。

「雪村に手当てしてもらえ。後は俺がなんとかする」

斎藤の声は冷ややかだった。

しかしそこに、霧島をこれ以上危険にさらすまいという、はっきりとした意志が感じられる。

「……わかりました」

霧島はかすれた声で応じ、よろめく足取りで立ち上がった。
だが視線は藤堂から離せない。

赤い光を失い、今はただ肩を上下させている藤堂。

さっきまで獣のように暴れていた男と、目の前の弱々しい姿が同じ人物なのか――霧島の心は混乱していた。

だがその奥底で、妙な確信が燻る。
あの瞬間、藤堂は本気で自分を襲おうとしていたわけではない。

牙を食い込ませながらも、どこかで必死に堪えていた――そう思えてならなかった。

斎藤がわずかに顎をしゃくる。
退出を促され、霧島は唇を噛みしめ、腕を押さえたまま部屋を後にした。

畳の上を離れる自分の足音が、やけに大きく耳に響く。

その時、背後からかすかな声がした。

「……ごめんな」

思わず振り返る。
藤堂は顔を伏せたまま、唇だけをわずかに動かしていた。

それが幻聴だったのか、確かな言葉だったのか、霧島にはわからない。
ただ胸の奥に、痛みと切なさがじんじんと広がる。

怒りでも恐怖でもない、名もなき感情が喉を詰まらせた。

廊下に出ると、冷たい空気が頬を撫で、ようやく呼吸が整う。
それでも胸のざわめきは収まらず、霧島は思わず壁に背を預けた。

(……生きてる。藤堂さんは、生きてる……)

その事実だけで、視界が滲んだ。
襲われた恐怖よりも、彼が生きてここにいることの方が、ずっと重かった。

袖で目元を拭い、痛む手首を押さえ直す。

雪村のもとへ急がなければ――そう思いながらも、足を踏み出すたび、先ほどの藤堂の赤い目と、最後に見せたかすかな表情が頭から離れなかった。
/ 121ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp