第11章 微光
藤堂は紅い瓶を見つめたまま、ふっと目を伏せた。
昼の柔らかな光が廊下に差し込み、その横顔だけが不自然なほど影を落としている。
「……なぁ、霧島」
その声はいつもの軽さを捨て、かすかに震えていた。
「俺さ、生きてるって感覚、ほとんど無いんだ」
藤堂は壁に背を預け、天井を見上げた。
まるで、そこに答えがあるかのように。
「こんな身体になっちまってさ。後悔してるのかって聞かれたら……正直、よく分かんねぇ。あの時は、生き延びたかった。まだ戦いてぇって思った。けど――代わりに失ったもののほうがずっと多かった」
握られた拳に白い力がこもる。
苦笑が漏れるが、その目は笑っていなかった。
「昼は滅多に起きてられねぇし、血に飢えて苦しむ事もある。人としての感覚が、日に日に削がれてるのがわかるんだ」
霧島は言葉も出せず、ただ藤堂の横顔を見つめる。
藤堂は続けた。
「この身体になった初めの頃は、それでも剣が振れるならいいって思ってた。仲間と戦えて、笑い合えれば、それで十分だって……」
一瞬、声が途切れる。
「でも今は違う。起きても、生きてるって実感がねぇんだ。心だけ別の場所に置いてきたみたいだ」
その静かな告白は、霧島の胸を締めつけた。
「……俺は、“あの日”に死んでおくべきだったのかもしれねぇ。人として生きて、人として死んだ方が……きっと、綺麗だった」
ぽつりと落ちた言葉は、昼下がりの廊下に重く沈んだ。
藤堂は霧島に向き直る。
目の奥には怒りでも悲しみでもない、もっと深い悔恨が宿っていた。
「だからな、霧島。総司には同じ思いをしてほしくねぇんだ」
声は柔らかいが、その裏に切実な願いが滲んでいた。
「総司は……自分の命より、仲間の明日を笑って信じられる奴だ。病に蝕まれても、自分のままで剣を振り続けることを選ぶ。そんな奴に、こんな薬は似合わねぇよ」
昼の光が、瓶の紅を淡く照らす。
その色は――藤堂の言う“薄れていった命”の証そのもののように見えた。