第8章 御陵衛士
藤堂の肩口から溢れ出る血は止まる気配を見せず、袴を濡らし、石畳に赤黒い道を描いていく。
藤堂はなおも地面を這い、震える手で落とした刀を探そうとした。
「……まだ、終わっちゃ……いねぇ……!」
かすれた声。唇の端から血が流れ、顎を伝ってぽたりと地面に落ちる。
永倉が駆け寄り、その肩を掴んだ。
「馬鹿野郎!!これ以上やったら死ぬぞ!!!」
怒声は叱責というよりも必死の叫びだった。
藤堂の目はかすかに揺れ、涙とも汗ともつかぬ雫が頬を伝う。
「平助!しっかりしろ!!!」
永倉の声に応じるように、霧島も背後から藤堂の体を支える。
その手に、どくどくと流れ出る血の温かさが重くのしかかる。
藤堂はかすかに笑った。
その笑みは血と涙に濡れ、あまりにも儚い。
「……もう……やめてくれ……」
その言葉を最後に、がくりと首が垂れ、全身の力が抜け落ちた。
霧島が息を呑み、永倉が奥歯を強く噛みしめる。
戦場に漂っていた緊迫した空気が、ふっと遠のいた。
御陵衛士たちは全員、すでに倒れている。
夜気に濃く漂う血と鉄の匂いが、三人の肺に刺さるように入り込んだ。
永倉はすぐに藤堂の鼻先に手をかざした。
かすかに感じる呼吸に、深く短く頷く。
「……死んじゃいねえな。急げ、平助を屯所へ運ぶ!」
原田が槍を地面に突き立て、藤堂の腕を肩に回す。
霧島も反対側に回り、必死に体を支えた。
「おい、しっかり支えろ霧島!」
「……はい!」
霧島の袖は血で重くなり、何度も手が滑りそうになる。
それでも必死に力を込め、藤堂の体重を支えた。
「死なせねえぞ、平助……!」
永倉が低く、まるで自分に言い聞かせるように呟き、前を睨んで歩き出す。
三人の足音が夜の京の町に響き、血がぽたりぽたりと石畳を染める。
誰も口を開かない。
ただ藤堂の命の火が消えぬように、全神経を張り詰めていた。
(生きてください……藤堂さん、絶対に……)
闇を裂くように屯所の明かりが見えた瞬間、霧島の胸に熱いものがこみ上げる。
涙が滲みそうになるのを、奥歯を噛んで堪えた。
「怪我人だ!医者を呼べ!!!」
永倉の声で、屯所の中から慌てた足音が響く。
三人は藤堂を抱えたまま土間に駆け込んだ。
(どうか……間に合ってくれ……!)
藤堂の血はまだ温かく、霧島の腕をじわじわと濡らし続けていた。