第8章 御陵衛士
霧島たちは藤堂を畳の上に横たえた。
袴はすでに血で重く沈み、傷口からはじわじわと赤黒い血があふれ続けている。
「手拭いだ!止血しろ!」
永倉の鋭い声に、霧島は弾かれたように腰の手拭いを外した。
震える手で傷口を押さえると、ぬるりとした血の感触が指の間に広がる。
(こんなに……血が……!)
胸の奥がぎゅっと縮み上がる。
斬り合いの最中には感じなかった恐怖と後悔が、今になって一気に押し寄せてきた。
原田が横に膝をつき、霧島の手に重ねるように圧をかける。
「押さえろ、離すな!死なせたら意味がねぇ!」
「……はい!」
霧島は奥歯を噛みしめ、さらに力を込めた。
手のひらに伝わる脈動が、やけに生々しく感じられる。
やがて、土方と山南が駆け込んできた。
土方の目は炎のように鋭く、山南の手には小瓶に入った赤い液体が握られている。
「お前たちは下がれ!」
土方の一喝で、原田と永倉は素早く立ち上がった。
霧島も動こうとしたが、なぜか足が動かない。
血に濡れた自分の手を見つめたまま、膝が畳に縫いつけられたようだった。
「霧島!」
永倉の声に我に返り、慌てて立ち上がる。
ふらつきながらも部屋を出ると、途端に全身の力が抜けた。
廊下に背を預け、深く息を吐き出す。
自分の掌を見ると、べったりと血がこびりついていた。
(斬った……藤堂さんの仲間を……)
指先が震える。
恐怖なのか、罪悪感なのか、自分でもわからなかった。
「平助は……羅刹になっちまうかもな」
永倉が低くつぶやいた。
「……羅刹?」
聞き慣れない言葉に霧島は顔を上げる。
「おい新八、余計なこと言うな」
原田が軽く睨むと、永倉は肩をすくめた。
「悪い、つい口が滑った」
「…ったく」
原田が低く吐き捨てるように言った、そのとき。
——襖が音を立てて開いた。
山南が静かに姿を現す。
「なんとか一命は取り留めました。ただ……今夜が峠になるでしょう」
短く告げられた言葉に、張り詰めていた空気が一気に緩む。
霧島はその場に崩れ落ちるように座り込み、溢れる涙を拭おうともしなかった。
夜はまだ深く、血と煙の匂いが屯所の空気に重く残っている。
それでも霧島の胸の奥には、確かな安堵が灯っていた。
(よかった……、まだ生きてる……)
それだけで、今夜の苦しみが少しだけ報われた気がした。
