• テキストサイズ

三番隊の剣士【薄桜鬼】

第8章 御陵衛士


屯所の門を出ると、冷たい夜気が頬を刺した。

霧島は立ち止まり、深く息を吸い込む。吐き出した白い息が闇に溶け、あっという間に消えていく。

胸の鼓動がやけに早い。耳元で鳴る太鼓のように、一定のリズムで、しかし落ち着かない音を刻んでいる。

夜の京の町は、異様なほど静まり返っていた。
虫の音ひとつしない。
遠くで犬が吠える声がしたかと思えば、それもすぐに途絶えた。

まるで町全体が、今夜これから起きる惨劇を察して息をひそめているかのようだった。

霧島は足音を殺し、石畳を踏みしめて進む。

一歩ごとに、背後の闇がじわじわと迫ってくるような気がして、思わず振り返りたくなる。

しかし振り向いてはいけないと、自分に言い聞かせた。

背後にあるのは屯所と仲間たち。守るべきもの。退く場所ではない。

やがて、約束の辻にたどり着く。

薄暗い行燈が一つ、心もとない光を落としている。

その光の先に永倉が立っていた。
腕を組み、夜の闇と同化するような無言の存在感を放っている。

その横では、原田が槍を肩にかつぎ、こちらに向かって軽く顎をしゃくった。

「遅かったな、霧島」

永倉の声は低く抑えられていたが、冗談ひとつ許さぬ鋭さがあった。
霧島は肩で息をしながら、深く頭を下げる。

「……お待たせしました」

原田が鼻で笑い、わざとらしく肩をすくめる。

「緊張してるな。……まあ、無理もねぇか。今夜は骨が折れるぞ」

その声には、いつも通りの陽気さと、どこか血の匂いを嗅ぎ分ける獣のような気配が混じっていた。

霧島は苦笑で返すしかない。
笑っているはずなのに、手のひらはじっとりと汗で濡れていた。

永倉は周囲に気を配るようにゆっくりと視線を巡らせ、静かに口を開く。

「よし。行くぞ」

三人は視線を交わした。それだけで十分だった。
次の瞬間、三つの影は闇の中へと溶けるように動き出した。

足音は極限まで小さく、呼吸も整えられている。

京の夜道を進む三人の間に、言葉はなかった。

ただ、刀の鞘がわずかに擦れる音と、槍の石突が土を打つ微かな響きだけが、規則正しく夜を刻む。

霧島は刀の柄に手を添え、呼吸を意識して整える。
鼓動はまだ早いが、不思議と恐怖は薄れていく。

かわりに、全身を冷たい炎が満たしていくようだった。
/ 121ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp