• テキストサイズ

三番隊の剣士【薄桜鬼】

第7章 新風


沖田が立ち去ったあと、霧島は静かに手拭いを握りしめた。

布越しに汗がにじむのが分かる。
弱音を吐きたい気持ちと、耐えなければという思いがせめぎ合う。

──自分が崩れたら、三番隊が崩れる。
その言葉を何度も心の中で繰り返し、呼吸を整えた。

稽古場から屯所へ戻る途中、廊下の角で小声が聞こえてきた。
耳に入れまいとしたのに、言葉ははっきり届いてしまう。

「……なんであんな新参者が隊長なんだろうな」

霧島は足を止めた。
声の主は、別の隊の古参隊士たちだった。

「斎藤隊長が指名したらしいが……」
「剣の腕は確かに立つが、隊をまとめる器かって言われると、なぁ」
「結局、土方副長が特別扱いしてるんじゃないか?」

霧島は息を呑んだ。
喉がひりつく。

足音を立てず、そっとその場を離れる。
心臓がどくどくと脈打ち、耳の奥で響く。

頭では分かっていた。

誰もが納得しているわけではないと。

けれど、面と向かわないところで不満を口にされると、
胸の奥に冷たいものが広がっていく。

(私が崩れたら、隊も──)

歩きながら、ぎゅっと手拭いを握りしめる。
手のひらに爪が食い込み、じんと痛んだ。
その痛みで、何とか感情を押し込める。

稽古場へ戻ると、隊士たちが水を飲みながら笑い合っていた。

霧島はしばし立ち止まり、彼らの姿を見つめる。

誰一人、三番隊を弱いと思わせてはいけない──。
その思いが胸の奥からじわりと湧き上がった。

「──稽古、再開しましょうか」

声を張り上げると、隊士たちが一斉に振り向いた。
霧島は真っすぐに彼らを見渡し、木刀を手に取る。

「何度でも付き合いますよ」

その声には迷いがなかった。
しかし、木刀を握る指先だけが白くなるほどに力がこもっていた。

稽古が再開されると、霧島は誰よりも声を張り、誰よりも木刀を振った。
まるで、自分自身を鼓舞するかのようであった。
/ 121ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp