第7章 新風
稽古が終わり、霧島は全員の前で深く息を吐いた。
隊士たちは汗だくになりながらも、どこか達成感に満ちた顔をしている。その表情に、霧島の胸の奥はわずかに軽くなったように感じた。
「……よし、今日の稽古はここまで。しっかり休んでください」
解散を告げると、隊士たちは威勢よく返事をして散っていく。
霧島は木刀を納め、手拭いで汗を拭いながら廊下を歩く。
「霧島」
不意に名前を呼ばれ、振り返ると土方が立っていた。
腕を組み、鋭い目でこちらを見据える。厳しさの奥には、わずかに柔らかさがある。
「三番隊、よくまとめてるな。稽古の声、よく響いてたぞ」
霧島は思わず背筋を伸ばす。
「……ありがとうございます」
「だが、無理はするな。隊長が倒れたら元も子もねぇ」
その言葉に霧島は一瞬視線を伏せる。
無理はしていない──そう言おうとしたが、喉に言葉が詰まる。
隊を守る責任と、斎藤の無事への不安が心の中でせめぎ合い、胸の奥がざわついた。
土方は小さく鼻を鳴らすと、懐から一通の封を取り出した。
「……斎藤からだ。見ろ」
霧島は息を呑む。
震える指で封を受け取り、そっと切り開く。
紙の手触りが指先に伝わるたび、緊張が増す。
中には簡潔な筆跡が並んでいた。
伊東、動きあり。未だ露見せず。
御陵衛士の内情、想定以上にきな臭い。
近々大きな動きあり。そちらは警戒すべし。
短い文だった。だが一言一言が霧島の胸を強く打つ。
手紙を握る指先に力が入り、白くなるほどに握り締めた。
「……斎藤隊長は……ご無事なんですね?」
思わず口にした問いに、土方は低く頷く。
「今のところはな。だが油断はできねぇ。あいつは命がけで動いてる」
霧島は唇を噛みしめ、手紙を胸に抱く。
胸の奥で早鐘のように心臓が打ち、頭の中で斎藤の姿や声が何度もよぎる。
安堵と不安が混ざり合い、息を整えようとしても思いは収まらなかった。
「……分かりました。三番隊は必ず守ります」
震える声で手紙を返すと、土方はうなずき、背を向けた。
霧島はその姿を見送りながら、しばらく立ち尽くす。
(隊長……どうか……無事で……)
心の奥で何度も祈りながらも、顔は上げる。
自分が崩れれば、三番隊も隊士たちも守れない──その思いだけで、再び背筋を伸ばし、歩みを進めた。