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三番隊の剣士【薄桜鬼】

第7章 新風


霧島は沖田に短く会釈し、斎藤へと視線を向けた。

斎藤の眼差しは、静かでありながら底知れぬ深さを湛えている。見つめられるだけで、心の奥まで見透かされそうだった。

「歩けるか」

低く落ち着いた声が響く。

「……はい」

霧島はふらつく足で立ち上がり、斎藤の後に続いた。

夕暮れの光が長い影を作り、二人の足音だけが静かに廊下に響く。
胸の鼓動はまだ早く、耳の奥で血の音がざわめいている。

先ほどの伊東の熱い囁きに霧島は息苦しさを覚えた。

やがて自室の前に着くと、斎藤は足を止めた。
夕陽の赤が彼の横顔を照らし、影が深く落ちる。

「何も聞かぬ。だが、何かあれば、すぐに言え」

斎藤の声は静かだったが、どこか強い意志が宿っていた。

「……遠慮はするな」

霧島は驚いて顔を上げる。
斎藤の横顔は相変わらず冷静で、感情は読み取れない。
けれど、その言葉の奥にあるものだけは、確かに胸に届いた。

「……はい」

かろうじて答えると、霧島は襖を開けて部屋へ入る。
襖が静かに閉まる音がやけに大きく響いた。

誰もいない部屋に一人になると、緊張の糸がぷつりと切れ、膝が崩れた。
畳に両手をつき、うずくまったまま、声にならない息を吐く。

胸の奥がまだ痛い。
伊東の手の感触も、沖田の笑みも、斎藤の冷たい瞳も、どれも焼き付いたままだった。

やがて、夜の虫の音が耳に入る。
ふと、襖の外から足音が近づく気配がした。
霧島ははっとして身を起こし、耳を澄ます。

「……霧島」

低く、抑えた声。斎藤だった。

返事をする前に、襖の向こうから続けられる。

「眠れぬなら、縁側に出るといい。風に当たれば、少しは落ち着く」

少し迷った末、霧島は立ち上がり、襖をそっと開けた。
縁側には斎藤が座っていた。月明かりに照らされた横顔は、昼間よりも柔らかく見える。

霧島はためらいがちに隣へ腰を下ろした。
夜風が頬を撫で、昼間の火照りを少しずつ冷ましていく。

「……心配、してくれているんですか」

霧島がぽつりと尋ねると、斎藤は短く息を吐き、わずかに目を伏せた。

「隊の者だ。放っておけるものか」

その言葉は淡々としているのに、不思議と胸の奥が温かくなる。
霧島は小さく頷き、夜空を仰いだ。

月は丸く、どこか遠い。
けれど、その隣にいる斎藤の存在は近く感じられた。
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