第7章 新風
伊東や新しく入隊した者たちが引き上げ、土間には土方、山南、沖田、永倉、斎藤、藤堂、原田、そして霧島が残った。
さきほどまでの喧噪が嘘のように、場にはひんやりとした沈黙が落ちる。
「伊東さん、水戸学に心酔してるって話だろ?なんで新撰組なんかに来たんだ?」
永倉が腕を組み、首をひねる。
水戸学――尊王論を根幹に据えた思想は、尊王攘夷を掲げる浪士たちに多大な影響を与えてきた。
幕府の命を受けて京都の治安を守る新撰組とは、本来相容れないはずである。
「……敵陣に乗り込んで、いずれは乗っ取る腹かもしれねぇな」
原田が不敵に笑い、言葉を続けた。
「表じゃきれいごと言ってるが、あの目は油断ならねぇ」
「原田、口が過ぎるぞ」
土方が低い声で制した。
しかしその眼差しには、同じ疑念がちらりと宿っている。
山南は穏やかな口調で言った。
「たとえ思想が異なっても、共に剣を執る者です。まずは力を合わせることが先決ではありませんか?」
「甘いな、山南さん」
土方は腕を組んだまま、吐き捨てるように言った。
「人は剣だけじゃねぇ。心がどこを向いてるかで、組を滅ぼすこともある」
沈黙が広がる。
藤堂は複雑そうに唇を噛みしめていた。
師匠が入隊してくれたことは本来喜ばしいはずなのに、周囲の警戒心が胸に重くのしかかる。
霧島は居心地の悪い思いで一同の顔を見回した。
伊東の目に宿る知性と自信、あの場を支配するような雰囲気がまだ胸に残っている。
「……俺は、しばらく様子を見た方が良いかと」
斎藤が口を開いた。
「剣も、人となりも、未だ分かっておりませぬ故」
霧島はその言葉に救われた気がした。
斎藤の冷静な態度が、混乱しかけた胸の中を落ち着かせてくれる。
「そうだね。下手に騒ぐより、まずは見極めかな」
沖田が笑いながら言い、場の空気が少し和らぐ。
「ま、伊東さんの悪口は俺の前じゃ控えてくれよな」
藤堂が苦笑混じりに言うと、永倉と原田が「おお、悪かった」と笑い飛ばした。
それでも、土方の鋭い眼差しだけは最後まで消えなかった。
霧島はその背中を見つめながら、胸の奥で小さく息をついた。
――新しい風が吹いた。
だが、それが嵐になるのか追い風になるのか、まだ誰にも分からない。