第7章 新風
一週間ほど経った頃、霧島はようやく稽古に参加できるほどに回復していた。
まだ全快とは言えないが、木刀を握る感触と、汗のにじむ感覚が体に活力を与えてくれる。
その日の午後、屯所が少しざわついているのに気づいた。
どうやら近藤が江戸で隊士募集を行い、何人かの志願者を連れて戻ってきたらしい。
土方、山南らを含めた幹部隊士集まる土間に霧島も足を運ぶ。
そして、その中に立つ一人の男に目を奪われた。
端正な顔立ち。
理知的な眼差し。
姿勢はすっと伸び、動作は無駄がなく、どこか武士というより学者のような雰囲気を纏っている。
「伊東甲子太郎先生だ。剣は北辰一刀流、免許皆伝」
近藤が紹介すると、伊東はゆっくりと屯所を見回し、目に映るものを一つ一つ吟味するように視線を巡らせた。
その瞳が、霧島の方にも一瞬だけ向けられる。
視線が合った気がして、霧島はわずかに背筋を正した。
「……あら、野蛮な組だこと」
伊東の口元がわずかに歪む。
それは皮肉にも称賛にも聞こえる、独特な響きだった。
学もあり、剣の才もある。
その物腰からは自信がにじみ出ている。
霧島は胸の奥に、何とも言えぬ不思議な緊張を覚えた。
才色兼備とはこういう人物を言うのか――そう思わずにはいられなかった。
伊東の言葉に、場の空気が一瞬だけぴんと張り詰めた。
しかし近藤は豪快に笑ってその緊張を吹き飛ばす。
「はっはっは!まあ、野蛮と言われればそうかもしれんな。だが、ここの連中は腕っぷしも肝も据わってる。すぐに気に入らと思いますぞ」
土方は腕を組んだまま、無言で伊東を観察していた。
その目は、表面上は冷静に見えるが、内心で何かを測っているようにも思えた。
霧島は、どこか居心地の悪い感覚を覚えた。
伊東の言葉は皮肉交じりだったが、決して無礼というほどではない。
ただ、彼がこの場に立つだけで、屯所の空気がわずかに変わる――そんな気がしたのだ。
「……あんたも気になるのか」
耳元で低く声がして、霧島ははっとして横を向く。
いつの間にか斎藤が隣に立っていた。
「はい」
霧島は少し戸惑いながら答える。
「俺もだ。だが、近藤さんが連れてきた以上、腕も人柄も見込んでのことだろう」
斎藤の声は淡々としていたが、わずかに警戒が滲んでいた。
その後、伊東は近藤や土方と言葉を交わし、正式に屯所に加わることとなった。
