第6章 休息
縁側に戻ると、斎藤は霧島をそっと腰掛けさせた。
霧島はゆっくりと足を揃え、両手を膝の上に置く。まだ早鐘を打つように脈打つ心臓を落ち着けるように、深く息を吐いた。
風がひとひら、頬をかすめる。
昼下がりの陽射しはやわらかく、庭の砂利や青い苔を金色に照らしていた。
遠くで雀のさえずりが聞こえ、さっきまで張り詰めていた身体から少しずつ力が抜けていく。
「今日はこれくらいにしておこう。あまり無理はさせられん」
隣に立ったままの斎藤が静かに告げる。
その声はいつもと同じ低さなのに、どこか耳にやさしい響きがあった。
「……でも、思ったより歩けました」
霧島が正直な感想をもらすと、斎藤は短くうなずく。
「回復は順調だ。だが調子に乗るなよ」
その声音はぶっきらぼうながらも、どこか優しさを含んでいる。
霧島はその温度を感じ取り、ふと隣の横顔を盗み見た。
昼の光に照らされた斎藤の輪郭はくっきりとして、普段よりも柔らかく見える。
すっと通った鼻筋、睫毛の影、わずかに動く唇。
彼の存在が、こんなにも近いのだと改めて実感する。
心臓が、また早鐘を打ち始める。
「……隊長」
小さな声で呼びかけると、斎藤は視線だけを霧島へ向けた。
「ん?」
その一音に促され、霧島は意を決したように深く頭を下げた。
「本当に……ありがとうございます。私、こうして生きて戻れて……よかったです」
自分でも驚くほど素直な言葉だった。
口にした瞬間、胸の奥が熱くなる。
斎藤はしばし沈黙した。
風の音と、木々の葉がこすれ合う音だけが耳に届く。
やがて彼は短く、しかし深く言った。
「……ああ。よく戻った」
その言葉は、静かで、けれど確かな温かさを帯びていた。
霧島の胸の奥にじんわりと広がるものがある。
視界が滲み、思わず袖で目元を押さえた。
泣くつもりはなかったのに、堪えようとすると余計に熱がこみ上げてくる。
斎藤は何も言わず、ただ黙ってその様子を見ていた。
責めもせず、慰めもせず、ただそこにいる。
その沈黙が、かえって霧島を落ち着かせた。
「……すみません」
かすかな声でそう言うと、斎藤は目を細め、手を差し出した。
「少し休め。夕餉の頃にまた来る」
そう告げる声は、淡々としていながらもどこか柔らかい。
霧島は斎藤の手を借りて、ゆっくりと立ち上がる。