第6章 休息
「……ゆっくりでいい」
斎藤に支えられ、霧島はそろそろと立ち上がった。
足はまだ頼りないが、思ったよりも地面をしっかり踏みしめられる。
「中庭に出てみるか。無理にとは言わないが」
「……はい。行きたいです、斎藤隊長と」
その言葉に、斎藤はわずかに目を細める。
普段よりも柔らかな笑みがこぼれた。
「外の空気に当たれば、少しは気も晴れるだろう」
そう言って霧島の手を取る。
思わず顔が熱くなるが、拒む気持ちは不思議と起きなかった。
「あ、あの……隊長……手が……」
「お前が転んで傷を開いたら厄介だ。我慢しろ」
淡々と告げる声に、霧島は小さくうなずく。
胸の奥がじんわりと熱を帯び、歩幅が自然と斎藤に合わさっていく。
廊下を進む途中、霧島は勇気を出して口を開いた。
「……あの、ずっとそばにいてくださって、ありがとうございます。三日間ほとんど眠らずに付き添ってくださったと……聞きました」
斎藤は足を止めず、静かに答える。
「気にするな。俺がそうしたかっただけだ」
そのあまりに簡潔な言葉に、霧島の心臓がどきりと鳴る。
足音だけがしばらく響き、沈黙が二人の間に満ちた。
やがて二人は中庭へ出た。
昼下がりの光がやわらかく降り注ぎ、草木がきらきらと輝いている。
風が吹き抜け、花の香りがふわりと漂った。
「ここなら足にも負担はかからん」
斎藤は霧島を縁側近くに座らせ、自分も隣に腰を下ろした。
その距離は普段より少し近い。
「どうだ、外の空気は」
「……とても気持ちいいです」
霧島は目を細めて空を仰ぐ。
青空の眩しさが心まで洗うようで、自然と息が深くなる。
「生きて戻れて、本当によかった」
思わず漏れた言葉に、斎藤がこちらを見た。
その眼差しに射抜かれ、霧島は思わず視線を落とす。
「助けたのは俺だけじゃない。皆のおかげだ」
「……でも、隊長がいてくださったから、私は――」
言葉の先は、胸の奥で熱に変わって消えた。
斎藤はそれ以上何も言わず、ただ静かに隣で風に耳を澄ませていた。
しばしの沈黙。
穏やかな昼の光が、二人の影を並べて落とす。
「……少し歩いてみるか」
斎藤の声に、霧島はこくりとうなずき、再び立ち上がった。
握られた手は、先ほどよりも少しだけ強く感じられた。