第6章 休息
それから数刻が過ぎたころ、霧島はいつの間にか浅い眠りに落ちていた。
夢とも現ともつかぬ中で、誰かの声が耳を打つ。
「……霧島、起きているか」
聞き慣れた低い声に、霧島ははっと目を開けた。
まだぼんやりとする意識のまま、掠れた声で答える。
「……起きています」
「すまない、起こしてしまったか」
斎藤の声音はいつもより柔らかく、霧島は小さく首を振った。
「いえ……」
「松本先生がいらっしゃった。傷の様子を見てもらうといい」
そう言うと斎藤は障子を開け、松本を招き入れた。
霧島は体を少し起こそうとするが、斎藤が軽く手を上げて制する。
「そのままでいい」
その一言に、霧島は素直に従った。
斎藤は霧島の枕元に腰を下ろし、松本がそっと包帯を解いていく。
露わになった脇腹の傷跡は、まだ赤々として痛々しい。
霧島は無意識に息を詰めた。
指先がぴくりと震えた瞬間、斎藤の影がわずかに動き、霧島の肩口にさりげなく手が添えられる。
それだけで、張り詰めていた胸の奥が少しずつ緩んでいく。
「……膿んではいないな。経過は順調だ」
松本が低くつぶやき、消毒薬を染み込ませた布を当てる。
ひやりとした感触に霧島は小さく身をすくめたが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「痛みはどうだ?」
「……まだ少し、でも前より楽です」
「ならば、あと数日で稽古にも参加できるようになるだろう。少し歩く程度なら大丈夫だ」
松本はそう言って、丁寧に新しい包帯を巻き直していく。
霧島は深く頭を下げた。
「ありがとうございます、先生」
「今は無理をせず、体力を取り戻すことだけを考えなさい」
そう言い残して松本は立ち上がり、部屋を後にした。
障子が静かに閉じられ、部屋には霧島と斎藤だけが残る。
先ほどまで医者の声で満たされていた空間が、急に静かになり、霧島は自分の鼓動の音を意識した。
斎藤は少しのあいだ霧島を見ていたが、やがて低く言った。
「……少し歩いてみるか」
霧島は驚いて目を瞬いた。
「え……」
「気晴らしだ。先生も歩くくらいなら問題ないと言った。足が使えるなら、確かめておいた方がいい」
斎藤は立ち上がり、手を差し出した。
霧島はためらいがちにその手を取る。
温かく大きな手が、自分を引き上げるように支えた。