第6章 休息
沖田が去って間もなく、
「入るぞ」
低く落ち着いた声とともに、障子が静かに開かれる。
現れたのは土方だった。
「起きていられるか」
「……はい」
慌てて上体を起こそうとした瞬間、脇腹に痛みが走り、霧島は顔をしかめた。
それを見た土方が、すぐに手を上げて制した。
「無理に起きるな。傷が開く」
短く告げると、土方は部屋の隅に置かれた座布団を引き寄せ、腰を下ろす。
「……大事には至らなかったようで、何よりだ」
「申し訳ありません。私が不覚を取ったせいで――」
言いかけた霧島を、鋭い視線が遮った。
その眼差しは厳しいが、叱責ではなく、ただ真っ直ぐに心を射抜くようだった。
「戦いに不覚はつきものだ。お前がここにこうして生きている――それで充分だ」
その一言に、霧島は胸の奥がじんと熱くなるのを感じ、言葉を失った。
土方は腕を組み、しばらく黙り込む。
重苦しい沈黙が部屋に満ち、霧島は思わず息を詰める。
「……悪かったな。無理をさせた」
「そんなことは……!」
思わず声が大きくなる。
失望されたのではないかと、胸がざわめいた。
土方は深く息を吐き、視線を少し落とした。
「斎藤から、次から部下を引き離さないで欲しいと言われちまった」
霧島の胸が小さく鳴った。
土方の表情が、苦笑ともため息ともつかないものに変わる。
霧島はそっと唇を噛みしめる。
斎藤が、自分のためにそこまで――。
土方はその様子を見て、わずかに表情を緩めた。
「……感謝しとけ。あいつは上官としての義務を果たしてるわけじゃねえ」
霧島の目が見開かれる。
鼓動が一気に早まる。
「お前がどう受け取るかは自由だが、あいつはお前を気にかけてる。隊士としてだけじゃない」
頬に熱が集まり、うまく声が出ない。
俯いた霧島の沈黙が、かえって心の中のざわめきを鮮明にした。
土方はそれ以上何も言わずに立ち上がる。
障子の外から、ひやりとした朝の空気が流れ込んだ。
「しばらくは休め。体が戻りきる前に無理すれば、また同じ目にあうぞ」
部屋を出る直前、土方はふと振り返る。
「……よく生きて戻ったな、霧島」
ほんの一瞬だけ、口元に柔らかな笑みが浮かんだ気がした。
次の瞬間には障子が閉じられ、部屋は再び静寂に包まれる。