第6章 休息
斎藤が部屋を出て行ったあと、霧島はしばらく障子から差し込む朝の光を眺めていた。
脇腹は痛むが、不思議と心は落ち着いている。
胸の奥にぽつんと小さな火が灯ったような感覚が、まだそこにあった。
どれくらいそうしていただろうか。
唐突に障子ががらりと開いた。
「おはよう、霧島くん」
軽やかな声が部屋に飛び込んでくる。
沖田だ。
相変わらず人懐っこい笑顔を浮かべ、遠慮なく部屋に入ってくる。
「君、ちゃんと生きてるんだね」
「……沖田さん」
沖田は霧島の顔色を一瞥し、表情を明るくする。
「うん、顔色も悪くない。あの時はどうなるかと思ったよ。はじめ君、ずっとつきっきりだったんだからね」
「……え?」
霧島は瞬きをした。
沖田は悪戯っぽく笑い、霧島の隣に腰を下ろす。
「三日間、ほとんど寝ずに様子見て、土方さんに寝ろと怒られても聞かないし。僕らが替わろうとすると『いい』って座り込んだままでさ」
「……」
霧島の胸が、どくんと音を立てた気がした。
斎藤の静かな瞳、額に置かれたひやりとした手の感触――。
すべてが鮮明によみがえる。
ただの上官としての責務だったのだろうか。
それとも、そこに別の感情があったのだろうか。
「……ご心配をおかけして、申し訳ありません」
霧島は小さな声でそう呟いた。
沖田は肩をすくめ、いつもの調子で笑う。
「まあ、そう言うだろうと思ったけどね。でも、感謝くらいはしてあげなよ。君を気にかけてるのは確かだから」
その言葉に、霧島は胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。
返事をしようとしたが、喉が詰まって声が出ない。
代わりに深く頭を下げると、沖田はふっと笑みを和らげた。
それからしばらく、沖田は屯所の様子を話して聞かせた。
京の騒がしい町のこと、土方の愚痴、くだらない冗談。
霧島は痛みを忘れて、少しずつ笑えるようになっていた。
「さて、僕はそろそろ行こうか」
沖田は立ち上がり、ひらひらと手を振りながら部屋を出ていった。
その背中が見えなくなると、再び部屋に静けさが満ちる。
心臓の鼓動が速い。
守られた安堵と、どこか甘い痛みが胸を満たしていく。
まぶたを閉じると、あの凛とした横顔が鮮明に浮かんだ。
その姿はただの上官ではなく、どこか遠くて近い、特別な存在として心に焼き付いていた。