第6章 休息
数日後。
霧島はようやく、上体を起こせるほどに回復していた。
まだ脇腹には痛みが残るが、こうして座れるだけでもずいぶん楽に感じる。
居室の障子が静かに開き、斎藤が入ってきた。
手には湯気の立つ茶碗を載せた盆を持っている。
「……隊長」
思わず背筋を伸ばすと、斎藤は眉をひそめた。
「無理に動くな。まだ全快じゃないだろう」
そう言いながらも、盆を膝前に置き、茶碗を差し出してくる。
霧島はおそるおそる受け取り、湯を口に含む。
少し冷ました湯はやさしく喉を通り、体の芯まで温めていった。
「ありがとう……ございます」
斎藤は短く頷き、霧島の向かいに腰を下ろす。
その距離は近いわけでも遠いわけでもない。
ただ、霧島にはなぜか心臓の音がやけに大きく響いて聞こえた。
「……あの時、助けてくださったんですね」
霧島がぽつりと呟くと、斎藤は視線をそらさずに答えた。
「助けたんじゃない。あんたが生きようとしたから、生き延びたんだ」
淡々とした声だったが、その奥にわずかな熱が宿っているように思えた。
霧島は胸がじんと熱くなり、言葉を失う。
斎藤がふっと口元を緩めた。
「次は、俺が心配せず済むようにしてくれ」
それは叱責というより、願いのように聞こえた。
霧島は頬が熱くなるのを感じ、思わず視線を落とした。
「……はい。次は、絶対に倒れません」
「言ったな」
斎藤の目が細められる。
からかうでもなく、ただその言葉をしっかりと受け止めるような眼差しだった。
その瞬間、霧島はふと気づく。
恐ろしいほどの死線をくぐり抜けたはずなのに、今は不思議な安らぎがあった。
それは、この人がすぐ傍にいるからなのかもしれない。
斎藤はやがて立ち上がり、刀を手に取る。
「もう少しすれば、外を出歩くくらいは出来るだろう。だが稽古はまだ先だ」
「はい、隊長」
霧島は背筋を伸ばし、深く頭を下げる。
その声に、斎藤が小さく笑った気がした。
障子が閉じられ、静けさが戻る。
霧島はまだ熱の残る胸に手を当てた。
今、心に灯ったこの想いが何なのか――はっきりと分からない。
けれど、もう少しだけこのまま、彼の隣にいたいと思った。