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三番隊の剣士【薄桜鬼】

第1章 剣士



「もういい、充分だ」

斎藤は木刀をゆっくり下ろす。
張りつめていた稽古場の空気が、まるで糸が切れたかのように緩んだ。

「いい腕だ」

その短い言葉には、厳しくも真摯な承認の重みがあった。

霧島は木刀を握りしめたまま、深く息を吐く。

冷たかった床の感触、掌に伝わる木刀の手応え、そして斎藤の視線――すべてが、心の奥に力強く刻まれた。

「ありがとうございました!!」

隊士たちの視線が一斉に霧島に注がれ、雪村は小さく微笑んでいる。

その微笑みは、まるで「よくやった」と声をかけてくれるようで、霧島の肩の力が自然と抜けた。

霧島は壁に木刀を立て、背筋を伸ばしたまま視線を斎藤に向ける。
胸の奥には熱いものが込み上げる。

初めて、己の力が認められた実感が全身に広がった。

稽古場に漂う木刀の匂い、汗の香り、そして静寂の余韻。
そのすべてが、霧島の心に刻まれ、覚悟と決意を新たにする瞬間となった。

「霧島さん、お疲れ様でした」

雪村が手拭いを差し出す。
霧島は受け取り、汗をぬぐいながら深く一礼した。

「ありがとうございます」

「霧島さん、お強いんですね」

少し驚きと尊敬の混ざった声に、霧島は軽く首を振る。

「…まだまだですよ、私は」

口ではそう言ったが、瞳の奥には一瞬、影が差す。
両親を守れなかった――その思いが、胸の奥でざわめく。

斎藤はそのわずかな陰りを、見逃さなかった。
無言のまま、霧島の背中に宿る覚悟と痛みを、静かに読み取る。

稽古場の空気が少し柔らぎ、隊士たちも安堵の表情を浮かべる。
雪村は手拭いを握り直し、小さく笑った。

「霧島さん、これからもよろしくお願いしますね」

霧島は軽く頷く。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

雪村はにこやかに微笑んだ後

「それでは私はこれで」

軽く頭を下げ、雪村は稽古場を後にした。

「本日の稽古はここまでだ。各々、巡察まで休むように」

斎藤の低い声が板張りの稽古場に響く。

「はっ!」

隊士たちが一斉に木刀を下ろし、礼をして散っていく。

稽古場に残ったのは、汗と熱気と、まだ消えきらぬ緊張の気配だ。
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