第5章 池田屋
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深い闇の中。
どれほど彷徨っていたのだろうか。
体の芯に鈍い痛みが走り、意識がゆっくりと水面へ浮かび上がる。
「……っ」
かすかな声と共に、目の前に斎藤の顔がぼんやりと浮かんだ。
眠っていた間に、どれだけ時間が過ぎたのか分からない。
呼吸を整えようとするだけで、脇腹の傷が鋭く痛む。
部屋の蝋燭が小さく揺れ、壁に長い影を落としている。
外はもう夜なのだろう。
「目を覚ましたか、霧島」
聞き覚えのある低い声。
その声はいつもよりどこか柔らかく、霧島の胸にじんわりと温かさを広げた。
「……隊長」
かすれた声が震える。
体をわずかに動かしただけで、痛みが胸に突き抜けた。
視線を落とすと、包帯で覆われた脇腹が目に入る。
「まだ休んでおけ。傷が開くぞ」
穏やかに響いた声が、逆に霧島の心をざわつかせた。
どうしてこんなにも胸が熱くなるのか、自分でも分からない。
「あの、隊長、私は……」
「池田屋で弾丸を食らって倒れていた」
斎藤の言葉は短い。
だがその視線は霧島の奥底まで届くように鋭く、それでいてどこか温かさを帯びていた。
戦場の厳しさだけではない、別の感情がそこに潜んでいる気がしてならない。
胸に後悔と罪悪感が押し寄せる。
「迷惑かけて……申し訳ございません」
声は震え、涙が滲みそうになる。
斎藤は何も言わず、霧島の額に手を置いた。
ひやりとした感触が、逆に心の奥をぎゅっと掴む。
「皆で戦場に出て、誰にも迷惑をかけずに帰ることなどできん。命があるだけで、俺は安堵している」
淡々とした声なのに、不思議と優しさを含んでいた。
その温度に、霧島の胸が小さく高鳴る。
「……でも、私がもっと強ければ……!」
吐き出す声はか細く震え、悔しさが混じる。
斎藤は黙したまま包帯を巻き直し、低く告げた。
「まずは生きろ。生きて、次に備えるんだ」
その言葉に霧島は深く頷いた。
体は重く、痛みは鋭い。
だが心の奥に、小さな炎が再び灯る。
それは戦う意志、仲間を守る決意――。
そして、斎藤という存在を強く意識してしまう感情だった。
「……はい、隊長」
かすかに震えていた声に、力が戻る。
斎藤の瞳が、優しくも厳しく霧島を見据えていた。
その視線に、霧島は守られている安心感と、芽生えたばかりの淡い想いが重なるのを感じた。