第5章 池田屋
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「伝令です!会合場所は池田屋!」
四国屋に駆け込んできた雪村の声が、場を震わせた。
土方が即座に立ち上がる。
「行くぞ!」
四国屋に布陣していた隊士たちは一斉に駆け出し、池田屋へと向かった。
夜の京の町を抜け、現場へ到着したとき――。
すでに池田屋の中は地獄絵図と化していた。
血と汗、散乱した武具。
転がる手足や胴、畳に染みついた血の匂いが鼻を刺す。
息を呑む間もなく、近藤の声が響いた。
「おう!来たか、トシ!」
声はかすれ、肩で息をしている。
土方は短く頷き、「遅くなってすまない」と返した。
「どうだ、戦況は」
「二階で総司が血を吐いて倒れている。霧島くんと平助も重症だ」
「……そうか」
土方の顔に一瞬だけ影が走る。
だがすぐに表情を引き締め、声を張った。
「原田は裏手を押さえろ!俺と近藤さんで一階を片付ける!残りは二階の救護を頼む」
鋭い指示が飛び、隊士たちはそれぞれ持ち場へ散った。
斎藤は雪村を伴い、真っ先に二階へ駆け上がる。
戦いの気配はほとんど残っていない。
浪士たちはほぼ斬り伏せられ、部屋は静まり返っていた。
それがかえって不気味で、胸の鼓動がやけに耳に響いた。
(霧島……無事でいてくれ)
二階の奥まで一気に駆け抜けると、三つの部屋が並んでいた。
斎藤は手前の襖に手をかける。
音もなく開いた襖の向こう――
「霧島!」
脇腹から真っ赤な血を垂らし、霧島は畳の上に倒れていた。
顔色は蒼白で、唇も青い。
駆け寄って脈を確かめると、かすかに鼓動が残っている。
「まだ生きてる……!」
斎藤は迷わず帯を解き、即席の止血を施した。
だが血は止まらない。
深傷だ。
焦燥で指先が震える。
「誰か!霧島を運べ!」
怒鳴るように叫ぶと、他の隊士が駆けつけ、霧島の体を慎重に担ぎ上げた。
斎藤は先頭に立ち、足元の血だまりを踏み越えながら降りていく。
総司や平助も別の隊士に担がれ、戦場の喧騒が少しずつ遠ざかる。
斎藤の耳には霧島の浅い呼吸音だけが響いていた。