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三番隊の剣士【薄桜鬼】

第5章 池田屋


「御用改めである! 詮議のため、宿内を改めさせて貰う!」

近藤の声が夜気を裂いた。
池田屋の中が一瞬でざわめきに変わる。

椅子が倒れる音、盃が割れる音、荒々しい怒声――混沌が襲う。

「おいおい、近藤さん。そんなこと言ったら逃げられちゃうだろ」

永倉が苦笑まじりに呟き、沖田が口元を緩める。

「討ち入りを知らせちゃうなんて、近藤さんらしいよね」

その時、二階から数人の男が飛び降りるように駆け下りてきた。

「新選組だ!!!」

怒号とともに刃が閃き、近藤がそれを正面から受け止める。
火花が散った。

「総司と平助、霧島くんは二階を頼む、永倉くんと俺は一階を片付ける」

近藤の指示に「了解!」と声が重なる。

沖田、藤堂が階段を駆け上がり、霧島も刀を握り直して後に続いた。

二階に足をかけた瞬間、

「来たな、新選組!」

浪士たちが一斉に構えた。

畳の上に散らばる膳、こぼれた酒が光り、畳が濡れていた。

霧島は刀を抜いた。

初めての実戦――耳の奥で鼓動が爆ぜる。

一人目の浪士が斬りかかってきた瞬間、条件反射で腕を払うように斬りつける。

手応え。

生々しい叫び声。

温かい液体が頬に飛んだ。


一瞬、足が止まりそうになる。

「霧島くん、前!」

沖田の鋭い声に背中を押され、霧島は踏み込んだ。

二人目が突きかかる。

火花、金属のきしみ。

喉が焼けるように乾き、腕が震える。

(斬らねば、斬られる――!)

全身の力を込めた突きで、浪士の体が崩れ落ちた。

視界の端で沖田が舞い、藤堂が背後を守る。
新選組の動きは無駄がない。

「押し込め!」

沖田の号令に、霧島も必死で前へ。
恐怖よりも高揚感が勝り、血の匂いすら遠く感じる。

次第に二階の座敷は血と怒号で満たされ、敵は奥へ奥へと追い詰められていった。

霧島の呼吸は荒く、汗と血で前髪が頬に張りつく。

だが、心は冴え渡っていた。

やがて、二階の一番奥――三つ並ぶ静かな部屋の前にたどり着く。
嘘のように静かで、声ひとつ聞こえない。

「ここで分かれよう」

沖田の声に霧島は頷いた。
二人と別れ、霧島は一番手前の襖をゆっくりと開ける。

畳の匂いが強くなる。

刹那、闇の奥で何かが動いた。

霧島は息を呑み、刀を握り直して一歩踏み入れた。
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