第5章 池田屋
夜が訪れる頃、屯所は異様な熱気に包まれていた。
提灯の明かりが次々と灯され、闇を押し返すように赤い光を投げる。
霧島は鎖帷子を身にまとい、刀を腰に差した。
汗ばむ掌で柄を握り直すと、金属のひやりとした感触が背筋を引き締める。
「庭に集まれ!」
隊長の号令が響き、各隊の隊士たちが整列していく。
霧島も列の端に立ち、緊張で喉が渇くのを感じていた。
やがて、土方が現れた。
黒羽織の裾を翻し、鋭い眼光で全員を一瞥すると、口を開いた。
「長州や土佐の連中が今夜、会合を開く。場所は池田屋か四国屋だ」
ざわ、と列が揺れた。
霧島の心臓が、ひときわ強く跳ねる。
土方は続ける。
「これより二手に分かれる。近藤局長、一番隊、二番隊、八番隊は池田屋。その他の隊は四国屋を押さえろ」
一拍置き、土方が霧島を指差す。
「霧島。お前は池田屋だ」
息が止まったような気がした。
三番隊から離れ、単独で池田屋に向かえというのだ。
「斎藤とは分かれるが――お前の腕を見込んでのことだ。近藤さんたちを頼んだぞ」
「はっ!」
思わず声が大きくなる。
土方の視線が全員を貫く。
「いいか、相手はただの不逞浪士じゃねぇ。一人でも取り逃がせば、京が火の海になると思え。斬ると決めたら迷うな」
その声は冷たく、しかし不思議なほど澄んでいて、霧島の胸に真っ直ぐ突き刺さった。
背筋が伸び、心の迷いが削ぎ落とされていくのを感じる。
「支度が整い次第、出るぞ。……以上だ」
一斉に「はっ!」と声が上がり、隊士たちは散っていった。
霧島も黙々と支度を整える。
鞘から刀を抜き、刃文を確かめたとき、胸の奥でざわめいていた不安は、静かな決意に変わっていた。
(池田屋か……副長の期待を裏切るわけにはいかない)
腰に刀を差し直したところで、廊下から永倉の声が響いた。
「おい、出るぞ!霧島は俺達に付いてこい!」
霧島は深く息を吸い、立ち上がった。
決戦はすぐそこまで迫っていた。