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三番隊の剣士【薄桜鬼】

第5章 池田屋


屯所に戻ると、門前に原田、永倉がひそひそと声を交わしていた。
霧島と斎藤の姿を見つけると、二人が駆け寄ってくる。

「戻ったか、斎藤。……古高が白状したらしいぞ」

「何を吐いた」

斎藤の声は変わらず冷静だ。

「長州や土佐の連中が、京のどこかで会合を開くらしい。詳しい場所を土方さんに話したって話だ」

原田のその言葉に、霧島の背筋がぞくりとした。
ただの噂や警戒ではなく、ついに敵の実動が掴めたのだ。

「土方さんは今、急ぎ会合の場所を詰めている。今夜か明日には出陣になるかもしれねぇ」

永倉が低く言う。

斎藤は黙って頷き、霧島に目をやる。

「……やはり動くな」

霧島は無意識に拳を握りしめていた。

いよいよ来るのだ。

鍛錬で流してきた汗も、今日の巡察で覚えたざわめきも、すべてはこの瞬間のためにあったのだと悟る。

「霧島、支度を整えておけ」

「はい」

屯所では既に他の隊士たちも慌ただしく動いていた。

鎖帷子を出す者、刀を研ぐ者、手拭いで柄を拭う者――。

皆が無言で、しかしどこか張り詰めた空気をまとっている。

霧島も黙って刀の鞘を外し、刃の輝きを確かめた。

心臓が落ち着かないほど早く脈打っているが、不思議と怖さよりも静かな高揚があった。

(次は……本物の血が流れる)

「副長に巡察の報告に向かう。お前も来い」

斎藤の言葉に霧島は深く息を吐き、腰の刀を差し直す。

二人は並んで廊下を進んだ。

副長の居室の前で斎藤は短く息を吐く。

「副長、斎藤です」

「霧島です」

声をかけた障子の向こうから衣擦れの音が聞こえる。

「おう、入れ」

「失礼します」

土方は文机の上に地図を広げていた。

「本日の巡察ですが、特に異常はありませんでした」

「そうか」

土方は地図から顔を上げないまま、低い声で答える。

「古高が吐いたと伺いました」

「あぁ、今、敵の根城を画策している最中だ」

そう言って土方はようやく顔を上げ、霧島を鋭く見据えた。

「霧島、お前はどちらだと思う」

突然の問いに霧島は戸惑い、思わず斎藤を見た。

「どちら……といいますと」

「池田屋か、四国屋かだ」

土方は指先で地図を二度叩く。

部屋の空気が一気に重くなる。
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