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三番隊の剣士【薄桜鬼】

第5章 池田屋


「霧島、そろそろ出るぞ」

斎藤が低い声で告げた。

「はい」

霧島は帯を締め直し、腰の刀を確かめる。

居室の外はまだ薄明るい朝。
夜と朝の境目の冷たい空気が、頬を撫でていった。

草履を鳴らしながら、斎藤と並んで屯所の門を出る。
既に三番隊の隊士達が並んで待っていた。

「おはようございます。斎藤隊長、霧島さん」

「おはようございます」

隊士たちに挨拶を返し、斎藤の隣を歩く。

朝露に濡れた石畳がひんやりとした感触を足裏に伝え、歩くたびに草の匂いがふわりと立ちのぼった。

町はまだ目覚めきらず、通りには早朝の商人や水を汲みに出た町娘の姿がちらほらと見えるだけ。

その静けさが、かえって霧島の胸をざわつかせる。

「今日も三番隊は四条通りまでだ」

斎藤が淡々と告げる。

「はい」

霧島は短く返事をし、歩調を合わせる。

(古高が……もしあの男が何か吐けば、近いうちに必ず出陣がある)

胸の奥がざわめき、心臓が早鐘を打つ。

だが足は止めない。巡察は町と人々を守るための第一歩であり、その先に待つ戦いに備えるためでもある。

霧島はひたすら己を磨き、剣を握る意味を確かめようとしていた。

斎藤がふと横目で霧島を見る。

「怖いか」

霧島は少し考え、正直に答えた。

「はい……ですが、それ以上に確かめたいです。自分がここにいる意味を」

斎藤は小さく頷き、口元を引き締める。

「ならば剣を抜くとき、迷うな。迷えば死ぬ」

その一言が、ひどく重く響いた。
霧島は深く息を吸い、胸の奥に刻みつける。

二人は無言で四条通りへと歩を進めた。

町は次第に人の気配を取り戻し、朝市の声や荷車の軋む音、炊事の煙が立ちのぼる。

霧島は周囲に目を配りながら歩き、平穏の奥に潜む緊張を嗅ぎ取ろうとした。

(今は静かだが、この静けさは長くは続かない……)

やがて巡察を終え、二人は屯所へ帰る道を辿る。

遠くに屯所の門が見えたとき、霧島は心の奥で何かが形を成したのを感じた。

それは恐怖を押しのけるように芽生えた、確かな決意だった。

次に剣を抜くとき、自分はもう迷わない――。

そう強く誓いながら、霧島は足を速めた。
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