第1章 剣士
「はっ」
霧島は即座に応じ、深く一礼する。
場の空気がわずかに揺れた。
稽古に励んでいた隊士たちの視線が、一斉に霧島へと注がれる。
新参が斎藤隊長の眼前で腕を試される――その意味を、誰もが理解していた。
雪村は心配そうに霧島を見つめたが、霧島の顔には迷いの色はなかった。緊張と高揚がないまぜになり、血が熱く滾るのを自覚する。
斎藤は既に木刀を手にして立っていた。
その姿は静謐でありながら、抜き身の刃のように張りつめている。
「……支度ができたら、いつでも来い」
鋭い眼差しが霧島に突き刺さった。
霧島は無言でうなずき、近くに控えていた隊士から小袖を渡される。
「ありがとうございます」
袴の上から小袖の前をきっちりと合わせる。帯を締め直す手は、静かに震えていたが、それを気合で抑え込んだ。
続けて、雪村が木刀を差し出す。
「――こちらを」
霧島は雪村から木刀を受け取ると、静かにその重みを確かめた。
樫の木で作られたそれは、真剣に勝るとも劣らぬ迫力を備えている。
袴の紐を締め直し、小袖の袖を紐でたくし上げる。
帯に手をかけ、ぐっと結びを固くすると、胸の奥にある迷いも同時に縛り上げられていくようだった。
足袋を脱ぎ、素足を据える。
冷たい床板の感触が一層、己を現実へと引き戻した。
稽古場は静まり返っていた。
木刀を構える前から、既に一つの立ち会いが始まっているようにすら感じられる。
霧島は正面に立つ斎藤へ向き直り、深く一礼した。
「――お手合わせ、お願い致します」
斎藤は言葉を発さず、ただ木刀を手に構えを取った。
その一挙一動に、場の空気が張りつめる。
周囲の隊士たちは誰一人として声を立てず、ただ新参と隊長との立ち会いを見守っていた。