第1章 剣士
廊下を並んで歩き出すと、霧島がふと問いかける。
「雪村さんは新選組の隊士なのですか?」
雪村は首を横に振り、少し照れくさそうに微笑んだ。
「いえ、私は土方副長の小姓として置いていただいてるのです」
雪村の声音には副長への敬意がにじんでいた。
「小姓といっても、副長の傍らに仕えるのは容易な務めではないでしょう。あなたの年で、その役を任されるとは……信頼が厚いのですね」
「恐れ入ります。まだまだ至らないところばかりですが、土方さんはよく目をかけてくださいますので……」
雪村は少しうつむき、言葉を濁した。
その時、遠くから木刀の打ち合う鋭い音が響いた。掛け声が重なり、板戸越しにも熱気が伝わってくる。
「ーーここが稽古場です」
戸を開けると、木刀の切り結ぶ乾いた音が響き渡った。
掛け声と踏み込みの音が重なり、床の上には汗の匂いと熱気が立ちこめている。
真剣さに満ちた気迫に、霧島の胸も自然と高鳴った。
「斎藤さん!」
雪村が一人の隊士に声をかける。
稽古を見守っていた細身の男が、ゆるりとこちらを振り返った。
切れ長の目は鋭く、無駄のない動きからただ者ではない気配が漂う。
「……雪村か」
「本日より三番隊に配属される、霧島さんです」
雪村は一歩進み出て霧島を紹介した。
「本日より斎藤隊長の元で任務にあたらせていただきます、霧島悠と申します。よろしくお願い致します」
霧島は深く一礼した。
斎藤は言葉を返さず、ただ黙して彼を見据える。
その眼差しに、言葉以上のものが宿っていた――覚悟ある者だけを受け入れる、鋼のような熱。
霧島は背筋を正したまま、自然と息を詰めていた。
稽古の手を止めた隊士たちも、いつしか視線を向けている。
沈黙が場を支配し、その静けさがかえって胸を締めつける。
だが斎藤の目は試すように、霧島を射抜いたまま揺るがなかった。
一瞬が永遠に感じられるほどの静寂ののち――斎藤はほんのわずかに顎を引き、視線を逸らした。
それは言葉こそなかったが、「受け入れた」という意思表示に他ならなかった。
霧島はその無言の承認を受け、張り詰めていた息を静かに吐いた。
「霧島、あんたの剣の腕を見たい。来て早々で悪いが、着替えて来てくれ」