第4章 剣技
「ありがとうございます!」
雪村は胸の奥から安堵がこぼれたように、ぱっと笑みを広げた。
霧島も小さく笑みを返し、廊下の先へ視線をやる。
夕刻まではまだ随分と刻がある。
中庭なら人も少なく、静かなうちに基礎を磨くにはちょうどいい。
「では、中庭へ行きましょう」
「はい!」
足音が板の廊下に軽やかに響き、木戸を抜けると、夏の陽をやわらかく反射した白砂が眩しく光っていた。
杉の葉を渡る風が涼やかに頬を撫で、遠くでは隊士たちの談笑がかすかに混じる。
霧島は歩きながら、先の巡察で斎藤に言われた言葉を胸に反芻する。
(剣は斬るためだけのものじゃない――雪村にも、その意味を伝えられるだろうか)
胸の奥に芽生えた思いを抱きつつ、二人はゆっくりと中庭へ歩を進めた。
中庭は昼の熱を残しながらも、杉の影が涼やかに差し込んでいた。
霧島は砂利を均すように一歩進み、雪村へ振り返る。
「じゃあ、まず構えからいきましょう。基本が崩れると、どれだけ振っても力にならないので」
木刀を手渡すと、雪村は姿勢を整えようとするが、肩に力が入りすぎているのが一目でわかった。
霧島は軽く笑みを含み、そっと背中に手を添える。
「力を抜いて……はい、肩を落として。足は半歩、前へ。そう、そのくらいです」
雪村の眉間の皺がほどけ、呼吸が少し落ち着く。
霧島は自分の木刀を持ち直し、砂利を踏む足を静かに開いた。
「木刀は振り回すものじゃなく、体の延長です。斎藤隊長が言ってました――“剣は人を守るためにも使える”。そのつもりで握ってみましょう」
「……はい」
雪村の瞳に確かな光が宿る。
二人は向き合い、同じ呼吸で構えを作る。風が杉を揺らす音だけが、しばし稽古場を包む。
霧島は木刀を軽く上段に引き、模範を見せるように振り下ろす。
砂利がわずかに鳴り、影が地面に踊った。
「ほら、もう一度。焦らなくていい」
「はいっ……」
雪村も真似るように木刀を振り下ろす。
まだ軌道はぎこちないが、腕の力みは先ほどより和らいでいる。
「そう、その調子。力よりも呼吸。息を吸って――吐くときに刃が落ちる」
霧島が淡々と指示を出し、雪村が何度も繰り返すうちに、二人の動きは徐々に静かな調和を帯びていく。