第4章 剣技
やがて二人は賑わう大通りを抜け、柳の並木が揺れる細道へ足を踏み入れた。昼下がりの陽射しはやわらぎ、石畳には葉の影が揺れている。
遠く、見慣れた屯所の門が小さく姿を現し、瓦屋根の向こうに淡く白い空が広がっていた。
斎藤は歩調を緩め、ふと口を開く。
「霧島、今日の巡察をどう感じた」
問いかけは淡々としているが、視線は真っすぐだ。霧島は少し立ち止まり、胸中のざわめきを確かめながら言葉を選んだ。
「……ただ剣を振るうだけが務めではない、と改めて思いました。人の腹の内を見抜く難しさ、そして……見逃す勇気の重さを知りました」
「そうか、それが分かれば十分だ」
低い声に含まれた温度に、霧島は胸の奥が静かに温まるのを覚えた。斎藤にとっては、それだけの答えで足りたのだろう。
門前に差し掛かると、門番を務める若い隊士が背筋を正し、深く頭を下げた。
「斎藤隊長、お帰りなさいませ。副長がお待ちです」
斎藤は軽く頷き、門番を労うように視線を返す。
そして同行した隊士たちを見渡し、落ち着いた声で告げた。
「各々、自由に過ごせ。稽古は夕刻に回す」
短い指示に「承知しました」と返す声が重なり、隊士たちはそれぞれ屯所の中へ散っていく。木戸をくぐった瞬間、土間を行き交う足音や談笑が一気に耳へ流れ込む。
霧島は肩の力を抜き、胸の奥で今日の巡察を反芻した。
斎藤の背に学ぶものの多さ、町の空気に触れて得た実感――。
それらが一つの芯となって体に根を張っていく。
(この背中を追えば、私も少しずつ変われる)
その時、背後から柔らかな声が届く。
「霧島さん」
振り返ると、雪村が小走りで近づいてきた。
日差しに高く結った黒髪が揺れる。
「お疲れのところ、すみません。もしお時間があれば……剣を教えていただけませんか?」
雪村の瞳の奥には真剣な光が宿っていた。
霧島は額に残る汗を指先で拭い、しばし息を整える。
「ええ、構いませんよ。まだ日も高いですし」
口にした瞬間、自分の声が落ち着いていることに霧島自身が驚く。
つい先ほどまで胸の奥で渦巻いていた巡察への緊張が、吹き抜ける涼風に溶かされていくようだった。