第3章 信頼
一拍の間を置き、霧島は深く息を整える。
「……よろしくお願いします」
霧島の言葉に、沖田はにこりと目を細めた。
木刀を軽く振って肩の力を抜きながら、飄々とした調子で応じる。
「そんなに気を張らなくてもいいよ。稽古は稽古、だからね?」
その声音は穏やかだが、立ち姿には一分の隙もない。
霧島は喉の奥で小さく唾を飲み込み、足幅を整える。
畳の感触が足裏にじんと伝わり、全身が研ぎ澄まされていくのを感じた。
沖田が一歩、間合いを詰める。
その動きは驚くほど静かで、気配だけが空気を揺らした。
霧島の背筋を汗が伝い落ち、木刀を握る手にさらに力がこもる。
「さあ、いくよ」
沖田の声が響くと同時に、稽古場の空気が張りつめる。
次の瞬間、木刀が軽やかに振り下ろされ、霧島は反射的に身をひねって受け止めた。
乾いた衝突音がこだまし、隊士たちの視線が二人へ集中する。
「いい反応だ」
沖田は笑みを浮かべつつ、すぐさま二の太刀を繰り出す。
霧島は息を詰め、必死にそれを受け流す。
腕は既に重いが、斎藤との稽古で培った集中がまだ残っていた。
木刀と木刀が何度も打ち合わされるたび、稽古場に乾いた音が響き、床板を伝って霧島の鼓動を揺さぶる。
周囲の隊士たちはいつしか笑みを消し、真剣な眼差しで二人の動きを追っていた。
沖田は軽やかに間を取りながらも、時折、霧島の隙を突くような一撃を落とす。
霧島は息を切らしながらも一つひとつを捌き、踏み込み、視線を逸らさない。
「なかなか粘るね」
沖田の声が柔らかく響く。
「……面白い子だ」
霧島の胸に、熱いものが灯る。
(負けたくない。ここで証を立てたい)
足を踏みしめ、もう一度木刀を振り上げた。
稽古場の朝の光が、二人の木刀を照らし、ほのかに汗の粒をきらめかせていた。
霧島は足を滑らせぬよう重心を低く保ち、沖田の目を見据える。
沖田は相変わらず笑みを絶やさず、しかしその眼差しの奥に、刃のような鋭さを宿していた。
「さあ、もう一息いこうか」
沖田の声が柔らかく響くと同時に、木刀が弧を描きながら鋭く振り下ろされる。
霧島は反射的に腕を上げて受け止めたが、衝撃が腕を痺れさせた。