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三番隊の剣士【薄桜鬼】

第3章 信頼


稽古場に木刀がぶつかる乾いた音が、間を置かず幾度も響き渡る。

足運び、衣擦れの音、斎藤の鋭い視線。
――そのすべてが霧島の意識を研ぎ澄ませる。

渾身の一撃を受け流され、息が荒くなったころ、斎藤がすっと一歩後ろへ引いた。

その瞬間、静寂を破るようにぱちぱちと軽い拍手が起こった。

「なかなかやるねぇ」

耳に馴染んだ柔らかい声に、霧島ははっと顔を上げる。

肩で大きく息をつきながら、額の汗が雫となって床に落ちた。

腕は鉛のように重く、足元はふらつきそうだが、胸の奥には不思議な充実感が広がっている。

声の方へ視線を向けると、柱に寄りかかって見物していた沖田がにこやかに手を叩いていた。

「……沖田隊長」

霧島はかろうじて声を絞り出した。

沖田はゆっくりと歩み寄り、目を細めて言葉を掛ける。

「はじめ君相手に、あそこまで食らいつくなんて大したもんだよ」

霧島は思わず目を伏せ、小さな声で応じる。

「いえ……まだ全然、歯が立ちません」

沖田は軽く覗き込むように微笑んだ。

「来たばかりの新入りがここまでやれるなんて、はじめ君のお墨付きなだけはあるね」

その声音は穏やかでありながら、どこか探るような響きがあって、霧島の胸にひやりとした感覚が走る。

(……見透かされている気がする)

だが沖田はすぐに肩をすくめ、飄々とした笑みを浮かべた。

「でも、無理は禁物だよ。突きを正面からもらったら、一週間は寝込む羽目になるからね」

冗談めかした調子に、稽古場の空気がわずかにほぐれ、小さな笑い声があちこちで漏れた。

霧島も肩の力が抜け、張りつめていた胸の奥が和らいでいくのを感じた。

「……肝に銘じます」

霧島は深く息を整え、木刀を軽く持ち直す。

沖田は満足げに頷くと、斎藤へと振り返り声を張る。

「さて、それじゃあ次は僕が相手をしようか?」

ざわめきと笑いが稽古場を包み、空気は再び熱を帯びた。

木刀を握る手にじんわりと力が戻ってくる。

体は疲れ切っているのに、心だけはまだ折れていない。

斎藤の静かな視線が遠くから送られてくる。

言葉はなくとも、その眼差しが確かに告げていた――「やれ」と。
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